紫煙を楽しむ
死亡率は100% |
人間には寿命があり、平均寿命が延び続けた現代でも、おおむね120歳までには寿命を全うすることから、解剖学者の養老孟司先生も指摘しているように、人間の最終的な死亡率は、100%(人間いつかは必ず死ぬ)ということができます(死亡原因は様々ですが)。この単純な事実に気付いていない人が案外多いのです。死亡率は100%であって人間いつかは必ず死ぬことを前提にした人生観、死生観を持ちたいものです。 もう一つの単純な事実として、疫学でなんでもわかると勘違いしている人が多いのですが、疫学には限界があるということです。これまでの疫学的研究結果から、喫煙は肺がん等の要因の一つであると認められていますが、集団を対象とした疫学的手法には自ずと限界があり、それを個人にあてはめるに際しては慎重でなければならず、病理学的、臨床医学的知見を合わせて総合的に検討する必要があります。特に、がん、心臓病、脳卒中等の非特異型疾病(各種要因が長期に複雑に絡み合う疾病)の要因を解析する場合には、疫学の限界に注意すべきなのです。 疫学は、特定の集団における健康に関連した状態や事象の分布や規定要因について研究する学問であり、典型的には、集団における疾病の発生状況を記述し、原因を解析し、それによって疾病を予防することを目指しています。近年では、疾病に限らず、健康増進や健康異常などにも対象範囲を拡大しつつあり、遺伝子レベルの解析を行う疫学も出てきています。歴史的に疫学の有用性を振り返ると、コレラ等の感染症の原因究明に成果をあげてきました(この場合、病原菌が特定されていなくても感染原を推定するのに疫学が有用とされました)。その後、がん、心臓病、脳卒中等の非特異型疾病の要因を解析する場合においても疫学は有効であるとされてきています。 肺がんの組織型に関する疫学的、人体病理学的研究の結果から、喫煙との関連は、主として扁平上皮がん、小細胞がんにおいて指摘されてきましたが、近年、扁平上皮がんの割合は減少傾向にあり、これらの型の肺がんに比べて喫煙との関連が弱いとされる腺がんの割合が増加傾向にあります。 疫学には、いろいろな手法がありますが、疾病群を対象として過去にさかのぼって原因を調査する研究、疾病に罹患した群(症例群)と対照群を横断的に比較する症例対照研究、一定規模の健康集団を登録して追跡調査するコホート研究などがあります。 従来、原データが公開されないなど、とかく批判の多かった平山によるコホート研究とは別個に、厚生労働省研究班によるコホート研究が新たに行われつつあります。このようなコホート研究は、一般的には40歳以上の健康集団を約20年以上にわたって追跡調査しますが、調査期間を大幅に長くして、対象集団すべての死亡原因を確認して解析するところまでは困難であるという問題点もあります。 以上のとおり、疫学は、医学の進歩に欠かせない学問ですが、疫学の限界を理解した上で、マスコミ報道等を考察する必要があるのです。 |
川原遊酔(かわはらゆうすい) |