紫煙を楽しむ

紫煙を楽しむ

川原遊酔(かわはらゆうすい)の「紫煙を楽しむ」
喫煙による社会コスト(その1)

喫煙により、喫煙者個々人だけでなく、社会全体として損失が発生している(つまり、喫煙により、社会コストが発生している)との指摘があります。

比較的最近の報告例では、1999年の油谷の報告が有名です(同氏の2002年の報告において数字の若干の修正が行われているが、大きくは変わらないので、以下、1999年の報告を対象にする)。大変問題の大きい報告であり、数字が一人歩きしている状況もありますので、二回に分けて論述したいと思います。

油谷の報告によれば、1年間に発生する喫煙による超過医療費1兆3,086億円、喫煙による労働力損失5兆3,811億円、これらを合計すると6兆6,897億円になり、更にその他の社会コストを加えれば総額7兆円以上の喫煙による社会コストが発生しており、これは、1年間のたばこによる税収を大きく上回ると指摘しています。

このような社会コスト試算には、以下のような問題点があります。

メキシコ ご来光先ず、基本的問題点としては、仮定に次ぐ仮定を重ねて結果を算出しており、過大推計になっている可能性があることです。問題のある仮定の最初の例としては、喫煙による超過医療費の試算が疫学統計の疾病死亡率から算出している点です。つまり、疾病罹患と疾病による死亡とがおおむね同じ傾向にあるとの仮定から、結果を算出しているわけです。以前にも指摘しましたが、人間の死亡率は100%ですので、自殺、事故死、PPK(ピンピンコロリ)を除けば、最終的には、喫煙の有無に係わらず、だれもが死に至る重篤な疾病に罹り、医療機関のお世話になり、それなりの医療費がかかるのは必然であります。したがって、喫煙による超過医療費の試算に当たり疫学統計の疾病死亡率を使うことも問題ですが、最終的な医療費は、喫煙の有無で大差ないはずなのです(仮に、喫煙者の方が数年寿命が短いとすれば、その分、医療費が少なくなることさえ想定されます)。

次に問題のある仮定の例として、喫煙による労働力損失の算出に際して、年齢に係わらず一人当たり雇用報酬を512万円としていること及び喫煙による損失寿命を12年(海外の疫学報告からの引用)としていることです。このような仮定に基づいて試算したため、かなりの過大推計になっている可能性が高いのです。ある研究者の再計算によれば、喫煙による労働力損失は、5兆3,811億円どころか、1兆318億円であったとの報告もあり、要は、仮定の置き方如何で、約4兆円も低くなるのです。

以上のことから、喫煙により、社会コストが発生しているのか、発生しているとしてその金額はいくらになるのかは、結論づけは困難な状況といえます。

川原遊酔(かわはらゆうすい)