紫煙を楽しむ

紫煙を楽しむ

川原遊酔(かわはらゆうすい)の「紫煙を楽しむ」
喫煙者は依存症か(その1)

最近、喫煙者は、ニコチン中毒であり、依存症患者のごとく吹聴される傾向があります。つまり、喫煙者は、アルコール依存症患者(アル中)と同じような依存症患者なのだという考え方です。

2006年4月から、中央社会保険医療審議会の答申に基づいて、「ニコチン依存症管理料」なる名目で、禁煙指導の健康保険適用が開始され、益々、この考え方に拍車がかかった感じがします。

果たして、「ニコチン依存症」は「アルコール依存症」と同様の医学的問題があるのでしょうか? たばこは止めたくても止められないとか、たばこ(ニコチン)は麻薬並みの強い依存性があるとか言われることがありますので、今回と次回は、たばこの依存性について主々の角度から考察したいと思っています。

「ニコチン依存症」は、”nicotine dependence syndrome”なる専門用語を訳して使用されているようですが、「アルコール依存症」は、”alcoholism”ということで、それぞれ全く異なる専門用語から派生しています。つまり、「ニコチン依存症」は、「ニコチン依存症候群」と訳すべきであり、「アルコール依存症」は、古くから知られている「アルコール中毒(アル中)」そのもので、精神医学的に性格が全く異なっています。喫煙には、習慣性がありますので、確かに、たばこ又はニコチンには弱いながら依存性があります。

一般に、薬物に対する摂取欲求の程度を「精神依存性」といい、禁断症状(退薬症候)の程度を「身体依存性」といいますが、「ニコチン依存症候群」に特徴的な症状は、中等度の精神依存性や微弱な身体依存性ぐらいです。一方、「アルコール依存症」は、強い精神依存性及び強い身体依存性に加え、摂取中の異常行動等の精神毒性も強いのです。ニコチンには、摂取中の異常行動等の精神毒性は全くありません(仕事中に喫煙しても問題ありませんが、仕事中や車の運転中の飲酒は禁物です)。このことは、喫煙中の人間に、社会的に問題となるような異常行動がみられないのに対して、「アルコール依存症」の人間は、飲酒中に異常行動(凶暴になったり、酒癖の悪さを出したり、ひどい場合は家庭を崩壊させるなど)を出現することを想起していただければ、わかりやすいと思います。また、常習喫煙者が、たまたま担当医から、ある疾病を理由として禁煙を強要されただけで、簡単に禁煙できるのに対して、「アルコール依存症」の人間は、専門の精神病院に入院しないと断酒できないことからも、おわかりいただけると思います。

以上要するに、たばこ又はニコチンには弱いながら依存性がありますが、摂取中に社会的に問題となるような異常行動は、みられないことから、喫煙者が、「アルコール依存症」と同様の「依存症」であるとは到底言えないと考えられます。

ちなみに、2003年10月の東京たばこ訴訟の東京地裁判決では、たばこの依存性について、「喫煙者自身の意思及び努力による禁煙ができないほどのものではない」と判示しています。

嗜好品や依存性薬物についての詳細な比較は、次回に解説したいと考えています。

川原遊酔(かわはらゆうすい)