紫煙を楽しむ

紫煙を楽しむ

川原遊酔(かわはらゆうすい)の「紫煙を楽しむ」
受動喫煙の疫学の問題点

前回、受動喫煙の法規制で心臓病が減少したとは言い切れないこと及び改めて疫学には限界があることについて指摘しましたが、それに引き続き、今回は、受動喫煙と肺がんの関係についての疫学の問題点について述べたいと思います。

たばこを吸っていると、その煙が周りの吸わない人に悪影響を及ぼすことを受動喫煙といいます。受動喫煙によって、吸わない人の目、鼻、喉などに刺激を与え、迷惑となることは、これまでにも指摘されてきていますが、近年、夫からの受動喫煙を受けた非喫煙の妻が肺がんになるリスクが高くなるとの疫学論文が発表されるようになって、受動喫煙問題がクローズアップされるようになりました。

夫からの受動喫煙を受けた非喫煙の妻の肺がんになるリスクに関する疫学論文は、1981年から2003年までに49報ほど、発表されています(平山の論文もこの中に含まれています)。しかしながら、その実態は、図1に示しましたが、受動喫煙の影響が統計の誤差を超えて認められた論文(受動喫煙の影響が認められた論文)は、12%(6報)しかなく、88%(43報)の論文は、統計の誤差の範囲内(受動喫煙の影響が認められない論文)でした。図1において、オッズ比「1」をまたいでいる場合が統計の誤差の範囲内であり、オッズ比「1」を超えて大きい場合が統計の誤差を超えて受動喫煙の影響が認められている場合を示しています。つまり、図1は、受動喫煙による肺がんリスクは大部分の論文で認められていないということを意味しています。

以上のとおり、受動喫煙による肺がんリスクは大部分の疫学論文で認められておらず、また、その他の受動喫煙の影響を調べた論文においても受動喫煙が有害であるとは一概には言えない状況であるにもかかわらず、世間では、いかにも受動喫煙の影響が確定しているかのように報道されており、受動喫煙の防止のためということで、タクシーの全面禁煙や公共の場所や職場の全面禁煙化が進行していることは憂慮に堪えません。

受動喫煙の影響のようにリスクが仮にあったとしても非常に小さい場合の疫学報告を考察する場合は、前回のコラムでも指摘したような「選択バイアス( selection bias)」(都合のいい報告だけを抽出するバイアス)や「公表バイアス( publication bias)」(影響ありの報告が学会誌に受理されやすいバイアス)に気をつける必要があります。

図1 夫からの受動喫煙による妻の肺がんの疫学(受動喫煙による肺がんリスクは大部分の報告で認められていない)
図表をクリックすると拡大します 図1 夫からの受動喫煙による妻の肺がんの疫学

川原遊酔(かわはらゆうすい)