紫煙を楽しむ

紫煙を楽しむ

川原遊酔(かわはらゆうすい)の「紫煙を楽しむ」

たばこと薬物の違い

 最近、麻薬や覚せい剤に関する事件が多発していますが、今回は、たばこと薬物の違いについて、改めて考察してみたいと思います。
以前のこのシリーズ(喫煙者は依存症か(その2))でも、述べましたが、たばこ又はニコチンには、程度は弱いものの、依存性があります。しかしながら、たばこ又はニコチンの薬理学的特性は、現行法で、原則的に所持、使用、販売等が禁止されている薬物(麻薬、覚醒剤、大麻等)とは異なりますので、再度、それらの比較表を掲出します(表を参照)。この表を作成したのは、薬物依存の世界的権威の柳田知司先生(東京慈恵医科大学客員教授)です。

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嗜好品および主要依存性薬物の依存特性の比較

一般に、薬物に対する摂取欲求の程度を「精神依存性」といい、禁断症状(退薬症候)の程度を「身体依存性」といいますが、「ニコチン依存」に特徴的な症状は、中等度の精神依存性や微弱な身体依存性ぐらいです。一方、表にもあるとおり、麻薬は、精神依存性、身体依存性、精神毒性が極めて強く、また、覚せい剤は、精神依存性や精神毒性が極めて強いのです。特に、「覚せい剤乱用者」は、幻覚や幻聴に基づく凶暴性等の精神毒性によって、社会問題にもなっているところです。また、「アルコール依存症」は、強い精神依存性及び強い身体依存性に加え、摂取中の異常行動等の精神毒性も強いのです。ニコチンには、摂取中の異常行動等の精神毒性は全くありません(仕事中に喫煙しても問題ありませんが、仕事中や車の運転中の飲酒は禁物です)。このことは、喫煙中の人間に、社会的に問題となるような異常行動がみられないのに対して、「アルコール依存症」の人間は、飲酒中に異常行動(凶暴になったり、酒癖の悪さを出したり、ひどい場合は家庭を崩壊させるなど)を出現することを想起していただければ、わかりやすいと思います。また、常習喫煙者が、たまたま担当医から、ある疾病を理由として禁煙を強要されただけで、簡単に禁煙できるのに対して、「薬物依存症」の患者は、専門の精神病院等に入院しないと薬物を断つことが難しいことからも、おわかりいただけると思います。

なお、最近、大学生等によって、大麻(薬理成分デルタナインテトラヒドロカンナビノール)の栽培、乱用等が社会問題となっており、近年の不正薬物事犯者数において、覚せい剤に次いで大麻が第二位になってきたことは、憂慮すべき事態です。大麻は、bad tripとgood trip といわれるような大麻類精神病などのために国際的にも禁忌の麻薬類であり、我が国でも大麻取締法によって、厳しく規制されているところです。

以上述べたとおり、たばこ又はニコチンには弱いながら依存性がありますが、摂取中に社会的に問題となるような異常行動は、みられません。

オランダを旅すると、日本では禁止されている薬物が合法的に販売されていてビックリしますが、国によって、一般の流通を禁止している薬物は、微妙に異なりますが、たばこや酒類のような嗜好品の流通は、おおむね合法になっています。

要は、人類による壮大な試行錯誤の結果から、たばこや酒のような嗜好品は、公共の福祉に反するほどには悪くないため合法物質とし、一方、麻薬、覚せい剤等の薬物は、公共の福祉に反するような害悪があるため禁忌物質としたものと考えられます。

川原遊酔(かわはらゆうすい)