禁煙ファシズムにもの申す

禁煙ファシズムにもの申す

文学者 小谷野敦の禁煙ファシズム闘争記

先日、「東京モーターショー」とかいうものが開かれたらしい。私は自動車には何の興味もないので詳しいことは知らないが、自動車のファッションショーのようなものだろう。

その模様はマスコミでも報道されたが、まず驚いたのは、NHKの午後六時十分から始まる関東地方のニュース番組の冒頭でこれが取り上げられ、アナウンサーが「ものを運搬する用途だけではないクルマの楽しさを知りましょう」というような発言をしたことで、あまりのことに私は憤然としてテレビをすぐに切ってしまった。

翌日あたりも、毎日新聞でその模様が報道され、以前、タクシーの全面禁煙を擁護していた自動車評論家・徳大寺有恒が出てきてコメントしていた。

私の知る限り、このような催しを批判したマスコミはない。礼讃一色だった。驚くべきことである。

歩きタバコは迷惑だの、タバコの煙は他人に害を与えるだのといったことが、まるで常識のように語られながら、明らかに大気を汚染し、交通事故で他人を直接に死傷させる自動車の、遊びでの使用を礼讃するとは、どういう神経であろう。

これは私の個人的意見だが、「ドライブ」などというものは、法で禁止すべきである。それを別にしても、これは明らかな二重基準ではないか。実際、東京大気汚染訴訟は、自動車会社に対して起こされたのであり、タバコ会社に対して起こされたのではなく、そのことはマスコミも報道しているのに、同じ口で、同じ手で、どうしてモーターショーなどというものを賞賛できるのか、理解に苦しむ。

これは何も、禁煙ファシズムと戦う立場でなくても、自動車の使用を制限すべきだという意見は世界的に高まりつつある。米国では、カリフォルニア州が、昨年九月、地球温暖化の責任者として自動車会社六社を提訴している。米国の州といえば、一つの国である。

残念ながら今年九月、米国連邦地裁はこの訴えを却下したが、シュワルツェネッガー知事だからこその行動か。しかし少なくとも、西欧諸国では、タバコ同様に、自動車もまた問題視されており、都市部への乗り入れ禁止措置などがとられつつある。日本は無策である。のみならず、マスコミのこのありさま。

しかも、カリフォルニア州の提訴について、日本で報道したのは北海道新聞、静岡新聞など地方紙のみで、四大新聞は報道していない。訴えられた企業の中にはトヨタもある。

このあたりに、日本のマスコミの、重要な広告主である自動車会社を何としても擁護しようという非人道的なまでの姿勢がかいま見える。個人では、タバコも自動車もともに問題にしている人はいるが、日本禁煙学会その他の悪質な禁煙ファシスト勢力が、自動車会社から運動資金の提供を受けているという噂も、いよいよ現実味を持ってくる。

もし彼らが、本気で国民の命や健康を気遣っているなら、自動車をまったく問題にせず、タバコばかり攻撃することはどう考えてもおかしいし、この点についての私の疑問にまともに答えた者は一人もいない。

川端裕人などは、小谷野さんが自動車が問題だと思うなら、どんどん発言すればいい、などと無責任なことを言っているが、私一人がいくら言っても、新聞やテレビが報道しなければ無力に等しいではないか。

私は昨年始めから、禁煙ファシズムとの戦いで、二つの裁判を起こした。

最初は、国を相手どって、杉村太蔵代議士の「タバコはくさい、きたない、金がかかるの3K」云々といった発言のほか、地裁でのタクシー禁煙訴訟に際する判決文で、全面禁煙が望ましいとしたものなどをまとめて、喫煙者への国家による迫害として賠償を求めたものだが、最高裁で上告が受理されず敗訴した。

次は、JR東日本が、新幹線などを全面禁煙にしたものへの差し止め訴訟で、現在東京地裁で審理中である。弁護士を探したが、法曹界も禁煙に席捲されていて見つからないから、全部一人でやっている。

しかし、こういう裁判について、新聞もテレビも一切報道しない。もはや現在のマスコミは、異論があることすら隠蔽するようになっているようだ。民主主義の末期症状だと言えるだろう。

小谷野敦:東京大学非常勤講師
比較文学者
学術博士(東大)
評論家
禁煙ファシズムと戦う会代表
2007.11.01