禁煙ファシズムにもの申す

禁煙ファシズムにもの申す

雲造院杢杢愛煙信士のつぶやき9
雲造院杢杢愛煙信士

某年某日

あの泉重千代さんは、たばこを吸っていましたよ

もうすぐ93歳になる私の書道の師匠がたばこを止めたのは、掛かりつけの若い医者から「癌になるぞ」と脅されたばかりでなく、「かつて120歳と男性最高齢を記録した泉重千代さんは、たばこを止めたから長生きした」と聞いたことも理由だそうだ。

もう……。

デタラメなウソを平気で言うヤブ医者だ。しかもタチが悪い。

おそらく周囲から総スカンの嫌煙運動屋のたぐいに違いない。

実は、泉さんが長寿世界一になられてから、私は鹿児島県徳之島に会いに行った事がある。

多くの報道関係者が取材に訪れているので駄目かもしれないが、もしかしたらと思い、役場に電話して相談したら紹介してくれるとのことだった。

南国の方は、役人も心が温かく親切だ。

その時、「手みやげは何が良いでしょうか?」と尋ねたら、「泉さんは大のたばこ好きだから、缶入ピースを10缶ぐらい持って行けば、さぞ喜ばれるでしょう」と心のこもったアドバイスを頂き、その通りにした。

泉さんにお会いした時、「お近づきの印に、詰まらないものですが」とピース缶を差し出すと、相好を崩されて、「これで後10日間は吸える」とおっしゃった。
私も本当に喜んで頂けて本当に嬉しかった。

そうなんです。
泉さんは毎日ピース缶を一缶吸っておられた。

当時のマスコミ報道では、「一日にたばこを数本程度嗜む」とのことだったが、これはいささか謙遜なさったのでしょう。あるいはマスコミの自己検閲かもしれない。

真実は、毎日、缶ピース1缶、50本を吸っておられたのだ。

しかも、その吸い方が見事だった。

先ず普通に火を点けて吸って、半分位になったらキセルに詰め替えて最後の最後まで吸っておられた。

愛煙家の鑑(かがみ)である。

一日に、2合の泡盛をちびりちびりと飲みながら、この吸い方をなさっていた。

後日、私も真似てやってみたが、一日に50本のピースを完全に吸いきったら、さすがに次の日には、ヘビースモーカーで鳴らす私でもいささか胸焼けした気分になった。

そんなスーパーヘビースモーカーの泉さんに、経験の浅い若い医者が「健康に悪いから」とたばこを止めるように莫迦げた「忠告」をし、それを素直に聞いてしまったのがとんでもない間違いだった。

その結果、1年も経たない内にお亡くなりになった。

日なが一日、する事も無く、大好きなたばこをゆったり吸って楽しんでおられたのに、その楽しみが突然なくなってしまった。

120歳まで元気に生きておられる方に「健康に悪い」と、大好きなたばこを止めるよう強く勧めるとは……。ああ、ため息が出る。

現代日本の教条的で画一的な医学教育は、知識だけ詰め込んで何も考えないロボットみたいな浅はかな莫迦医者ばかりを量産している。

察するに泉さんは、私のように長寿にあやかろうと面会に訪れる客は減らないのだから、相当なストレスだったのではなかろうか。

もしかして、あのまま好きなたばこを思う存分吸っておられたら、もっともっと長生きをなさったかもしれない。


某年某日

最後の一服

40年来のつきあいの友人が亡くなった。

3年前に食道癌と診断され、当時、余命長くて半年と宣告された。
その後の彼の生き方は見事だった。

「まだ半年も生きられる」と感謝していた。

「あと半年でなく」、「まだ半年も」と言って、最低限の治療をしながら思い残す事が無い様にと好きな事をした。
そんな生活が良かったのか、ガンの進行が遅くなり、宣告より2年半余分に生きた。

趣味豊かな男だったが、独身主義だった。

ある時その理由を聞いたら、「一度の人生、色々な事をしてみたい。普通のサラリーマンだから結婚して子供が出来たら好きな事が出来ない。わざわざ残すほどの名家では無いからな」と笑って答えた。

ヘビースモーカーで、面白い吸い方をした。

月初めのお金がある時は、ゴールデン・バット。その後は缶入ピース。そして月末で小遣いが少なくなったら、高級洋モクを吸っていた。

そんな彼が、亡くなる3ヶ月前から大好きなたばこを吸えなくなった。入院していた病院が、敷地内を全面禁煙にしたため、やむなく禁煙せざるを得なくなったと聞いた。

これまでは入院しても、敷地外までわざわざ歩いて行って吸っていたが、今回は寒くなる時期の入院なので、敷地外まで歩いて行くのが辛いから、吸えなくなったのだ。

余命僅かと、死を宣告された人間に大好きなたばこを止めさせることが、本当に医療行為なのか。

「退院したら、またたばこを始める」と言っていたが、容態が急変し妹さんからもう駄目かもしれないと連絡があり、病院へ駆けつけた。

集まった多くの友人に、「今までお世話になった。ありがとう。ちょっくら先に行くよ。」と切れ切れに言った。

その後「あ〜たばこが吸いてぇな〜」とつぶやいた。

立ち会った主治医は、まだ人間の心が多少は残っている人だった。

「何か有りましたらお呼び下さい」と言って病室から出て行った。

私が両切りピースに火を点けて、咥えさせると、微笑みながら吸い、
「やっぱりたばこは・・・」が最後の言葉だった。

合掌

2012.03.15