禁煙ファシズムにもの申す
雲造院杢杢愛煙信士のつぶやき19 |
雲造院杢杢愛煙信士
某月某日 肺ガン死亡率の低下は医療の進歩のおかげ とある老舗のバーに行った。 心を許せる友人とワイワイ言いながら飲む酒も良いが、たまには一人静かにパイプを燻らせ、スコッチやカクテルなど様々な酒を楽しむのも捨てがたい。 カウンターの奥でちびりちびり飲んでいると、入店して来た上品な紳士が「お、ラタキアをお吸いですよね、美味しいものをたしなんでいますね」と声を掛けてこられた。微笑んで会釈したら隣に座ってスコッチを注文なさった。 私が「宜しければどうぞ」とパイプたばこを差し出したら、「ありがとうございます。昔はパイプを喫っていましたが、今はあいにく仕事の都合でたばこを止めております。しかし、パイプや葉巻の香りは大好きです。ご自由にどうぞ」とおっしゃった。 この出会いが良かったので初対面にも拘わらず、酒やたばこにまつわる様々な話をして、会話を楽しんだ。 しばらくすると、新たに客が入ってきた。店に入るなり、「オイ、そこの葉巻を吸っている奴! 皆に迷惑だから止めろ!」といきなり怒鳴った。少し酔いが回っている様だった。 「葉巻」と言われたので、私のことではないと思ってそのまま喫っていたら、わざわざ隣にやってきて座りこんで「これだから、たばこ喫いは困ったもんだ。マナーがまるでなってねえ。葉巻を止めろと言っているだろうが」と喧嘩腰で絡んできた。どこにでもいる典型的な嫌煙サンの振る舞いだ。おまけに口調が下品だ。 私は「マナーがなっていないのは、失礼ながら貴方ではありませんか。店に来るなり、いきなり、大声を出すのは感心しませんな。それにこれはパイプです。葉巻ではありませんよ」と穏やかにたしなめた。当然、私も不快に感じたが、ゴロツキまがいの嫌煙サンといちいち事を構えるほど暇ではない。 すると、このゴロツキみたいな嫌煙サン、「そんなこたぁ、どうでもええ!まあ、俺の話を聞け!」大声でわめき出した。 彼が押し売りしたご高説を掻い摘んで紹介すると、「タバコを喫う人は喫わない人の何倍ガンになる」「日本人の二人に一人は癌に罹り、三人に一人は癌で死ぬ」「癌死の中では肺癌が一番多い」「肺癌で年間に何万人死んでいる」等々。要するに嫌煙団体のパンフレットにある見当違いの阿呆な主張を延々と繰り返すだけだった。 バーのマスターが「ここは、皆さんが楽しくお酒と会話を楽しむ処です。そんな演説は他でして下さい」と言っても聞く耳を持たない。ますます声を張り上げて話し続ける。 その話の中に「医学博士である私が、私が」というくだりがあった。 「ほう、貴方は医学博士ですか。それなら多少の医学の心得はあるわけだ。では、たばこを喫う人の喫煙率が毎年下がり続けているにも関わらず、肺癌死亡率が上昇続け、ここ数年は少し肺癌死が少なくなっているのを説明できますか?」と訊ねた。 この自称医学博士サンは、「喫煙率と肺癌死亡率には30年のタイムラグがある。このことは米国など、喫煙率が減少に転じた多くの先進諸国で確認されている」とおっしゃった。 この詭弁も嫌煙団体のパンフレットに書いてある。素人を騙すには十分に効果的だろうが、石綿が原因の肺癌発生を、安易にたばこと置き舞えただけの空想の産物だ。要するに統計のトリックで人を騙すウソ。 すると、黙って聞いていた先程の上品な紳士が「失礼ですが、貴方のご専門は何ですか? 実は私も医者で呼吸器科が専門です。たばこが肺癌発生の要素の一つであることは、ほぼ間違い無いと思いますが、あくまで数多くある要素の中のーつに過ぎません。たばこだけが肺癌の原因なら、現場で患者さんを治療している私たちは本当に楽なんですがね」と切り出した。 「高齢の方に肺癌が多いのも事実です。しかし喫煙から肺癌に至るまでに30年以上と言う説はどうでしょうか。証拠がまるでありませんね。10代や20代の若い人でも肺癌になっていることをどう説明するのですか?」と静かにおっしゃった。 紳士の静かな反論は続いた。 「確かに肺癌死は近年、減っていますが、肺癌の患者は増加し続けています。しかし、医療は日々進歩しています、例えば、今までの抗癌剤は癌細胞も正常細胞も等しく攻撃しますが、分子標的薬ですと癌細胞にだけ作用します。劇的に腫瘍を縮小させ、『治る』患者さんがいます。呼吸困難で救急搬送され、肺の中が真っ白で見えなかった患者さんが、2カ月後にはほとんど影が映らないくらいに改善したり、肺癌末期で余命3ヶ月と宣告され、私共の病院に来た患者さんが、5年経って生存しているだけでなく普通の生活をされている例もあります」 「勿論副作用もありますから、全ての人に使える訳ではありませんが、使えれば大変効果があります。他にもそれぞれの病根に対応した分子標的薬も出来てきています。経口抗癌剤でも効果があるものも出てきました。まだ治験治療の段階ですが、遺伝子治療も末期の方には効果があるものもあります」 「これらを見ても、お亡くなりになった方が減ったのは、医療の進歩、新しい薬と私共現場で、治らない癌をいつかは治してやろう、と頑張っているスタッフの努力の賜物と思って下さい。肺癌の専門医なら、貴方がさっきおっしゃった様な事は言わないと思いますよ」 「私は医学と現場医療の末端にいるしがない医師に過ぎませんが、少なくとも貴方のようにまだ分かってもいないことを安易に断定して、一般の方に向かって高圧的には言い切る自信はありません」 先程まで店内に響き渡る大声で「私の医学的見地ではどうだ。こうだ」と吠えていた自称医学博士の嫌煙ゴロサンは、「くそ面白くもねぇ」と下品な捨て台詞を吐き、グラスをテーブルにバシンと叩きつけて憤然と店を出て行った。 そこで、私は改めて紳士に自己紹介し、名刺を交換した。私の住んでいる街からやや離れた地域で開業なさっている先生だった。 私は肺癌にはならないという自信があるが、もし肺癌になったら、ちょっと遠いがこの先生のお世話になろうと思っている。 某月某日 昔話 友人が「面白いものがあったよ」と我が家の紫煙朦朦の遊び部屋に灰皿を持参して来た。 どこにでもある様な南部鉄器の灰皿だったので、「どこが面白いの」と聞くと、「裏返してそこに書かれている文言を見てご覧」と言われた。 裏返すと、そこには「一日消防署長記念」と書かれていた。 記念品として昭和60年頃貰った灰皿だそうだ。その頃は男性の喫煙率は70%以上。記念品としてふさわしかったのだろう。 確かに、どこの家でも灰皿が置いてあった。家族の誰も吸わなくても、応接間のテーブルの上には灰皿を置いておくのが普通の光景だった。 手土産にたばこを持参することも多かった。今、初対面の人にたばこを持って行くのは社会通念から外れている。 時代が変わったのを感じる。 論理が飛躍して申し訳ないが。古き良き日本が壊れていくような不吉な予感がする。 |
2012.08.28 |