禁煙ファシズムにもの申す
アポロ11 完全版 |
伊達國重
昭和44年(1969年)7月20日は、米国の宇宙船アポロ11号のニール・アームストロング船長とエドウィン・オルドリン月着陸船操縦士が初めて月面に降り立った人類史上、記念すべき日である。その50周年を記念して未公開だった映像と音声も駆使してアポロ11号の9日間の旅を描いたドキュメンタリー映画が現在、公開されている。 この映画は、当時の映像と音声データだけで制作し、解説やインタビューなど余計なものや、詰まらぬ後講釈などを一切加えていない正真正銘の本物のドキュメンタリーである。映像と音声は圧巻であり、素晴らしい。映画館で貰った小冊子には「当時撮影された70ミリフィルム映像を現代の4Kデジタルリマスターで美しく蘇らせた」とあった。 焦点の月面着陸の様子だけでなく、緊張感に包まれた打ち上げ前の管制センターの様子や宇宙服を着る飛行士たちの姿をありのままに記録している。 50年前の当時、科学とSF小説が大好きだった私は、アポロ11号の打ち上げから月への飛行、月の周回軌道入り、月面着陸、着陸船の回収、帰還、そして凱旋パレードを毎日、新聞やテレビジョンの報道でモノクロ画像ではあったが、興奮しながら見守った記憶がある。50年後に改めて鮮明なカラー映像で追体験できて感慨深かった。 一口に50年というが、やはり長い。アポロ11号の月着陸という人類史上輝かしい壮挙を、当時、実際に映像や報道で体験できた人は、現在60歳前後以上の人だろう。 そう言えば10年以上前だったか、私の知り合いの評論家が「人類の月面着陸は無かったろう論」という奇矯なる本を出版して、私に献呈してくれたことがあった。題名に驚いてざっと目を通したが馬鹿げた屑本そのもの。その後会った際に「正気かい?」と尋ねたら、米国の陰謀論と間違った科学風雑識を滔々とまくし立てられて閉口した。その評論家氏は私とほぼ同年輩で当時の月面着陸の報道は体験している筈。法律など社会科学分野は実に博学だが、自然科学の素養が皆無に近い上に、もともと極端な左翼の反米主義者だから妄想と思い込みが嵩じて錯乱本を書き上げたということだろう。これは余談。 閑話休題。映画を鑑賞しながら発見したのは、当時の打ち上げ管制センターのNASA職員に、葉巻や煙草をプカプカ喫煙しながら管制作業をしている人が少なからずいたことだ。 嫌煙キャンペーンが世間を席巻している今ではありえないかもしれないが、当時はありふれた光景だった。強い緊張感に包まれて長時間の意識集中を余儀無くされる職場では、ささやかな息抜きに喫煙は最良の手段である。コーヒーやお茶は、計器類に万一こぼしてしまうと、故障して不測の事態に陥ってしまうから、別室で嗜むしかない。私の学友の腦外科医もかつて、長時間の手術で一番難しいところに取りかかると、手術室を出て煙草を一服して心を落ち着かせ、改めて「よし!」と気合を入れてから精神集中して取り組むと言っていた。 最近は嫌煙運動の執拗な圧力で、喫煙の様子を映画やテレビジョンドラマに登場させるのはご法度になってしまっている。マラソンの金栗四三を取り上げたNHKの大河ドラマや、朝の連続テレビ小説では、喫煙のシーンは出てこない。当時の80%程度の喫煙率を考えると、ありえないことだ。かつては喫煙が当たり前で、タバコを吸わないのが少数派だったのだから。稀に愛煙家が登場すると、凶悪な反社会的人物のように描かれる。 これは歴史の改竄そのものであり、巧妙な洗脳である。テレビジョンを漫然と見ている人たちは、嫌煙団体の圧力に唯々諾々と従うマスメディアを通じて自分達が思想統制され、知らぬ間に洗脳されてしまっていることに何も気づいていない。 最後に大成果を挙げて地球に凱旋したアポロ11号の面々を迎えた管制センターの職員達が皆なで極太の葉巻を咥え、一斉に煙を吹き出して盛大に祝意と喜びを分かち合う場面が実に印象的だった。これが正真正銘の歴史の事実だったのである。 |
2019.07.31 |