禁煙ファシズムにもの申す

禁煙ファシズムにもの申す

某公的研究所の禁煙強制について

私は日本の、とある公的な○○○○研究所(※註)に勤めているポスドク(PD)研究員で、数理物理学を専門としております。

待遇や研究施設の内容には概ね満足しておりますが、研究室を管理する部門の愚かな職員たちによる理不尽な横暴さに、今や爆発寸前の状態に追い込まれています。

私は故国の尊敬する恩師を見倣って、研究テーマを考えるときにパイプを吸いながら、沈思黙考するのを習慣としております。また同僚たちとのアイデアの交換にも、パイプは手放せません。くつろいだ雰囲気の中で、心をリラックスして議論したり、考えたりしないと、素晴らしいアイデアは生まれないからです。

最初の禁煙規制は、2年ほど前に施設内のロビーやラウンジの禁煙から始まりました。一人で考える時には、研究室を使うので困りませんが、指導教員や同僚のPDとラウンジでくつろぎながらお茶を飲むのに、禁煙を強制されたのでは、話が弾みません。自然とラウンジに集まる機会は減ってしまいました。

半年ほどしたら、突然、建物内全部が禁煙となりました。当然、私は、強く管理当局に抗議しましたが、「時代の流れだから」という理由で、無視されました。誰がこういう禁煙措置を決めたのかも教えて貰えませんでした。

私と同様に愛煙家の指導教員に、なぜこうした強引なことが行われるのか聞くと、教員会議に事務管理部門から突然、提案があり、色んな反対意見があったが、無視されて押し切られたそうです。多数決も何もとらずに、何となく決まってしまったと言うことなのだそうです。

その会議で、私が敬愛する指導教員が強く異論を述べると、管理者のポストにいる人物が「理屈を言うな。上からの指示だ」と言ったそうです。「上から」とは一体何なのでしょうか?

それでもしばらくは研究室内でパイプやシガレットを吸うのは黙認されておりましたが、
昨年12月から「禁止措置を強化する」ということで、研究室でも吸えなくなりました。これも、誰が決めた措置なのかはわかりません。「そう決まった」のだそうです。

そういう訳で、建物内では吸えなくなったので、寒い屋外で吸うしかなくなりました。ところが、1月から研究所の敷地内全部を禁煙にするとの通知が連絡板に貼ってありました。要するに、私が務める研究所では、敷地内全部でシガレットもパイプも非合法ということだそうです。

私が心から尊敬する実在論の立場の物理学者Albert Einstein、Erwin Schrödingerはともに、いつも手からパイプを離さないヘビー・スモーカーでした。彼らがくつろいだ雰囲気の下で、ゆったりとパイプを燻らし、濛々たる紫煙の中で考え抜いた特殊相対性理論と一般相対性理論、量子力学の波動方程式は、人類の歴史に燦然と輝く偉大な業績です。日本でも自然科学を志す人で、Albert Einstein、Erwin Schrödingerの名前を知らない方はいないでしょう。いちいち名前は挙げませんが、理論物理や現代数学の著名な学者の多くが愛煙家です。

理論物理や純粋数学の思考は大変な頭脳労働です。長時間、集中して深く考え続けるのは、頭脳にもの凄い負荷がかかり、その結果、苛酷なストレスが溜まります。ささやかな嗜好品のパイプやシガレット、シガーは、強いストレスの緩和に欠かせないものなのです。

そういえば、タバコとは直接関係ありませんが、20世紀数学最大の巨人で不完全性定理に辿り着いたKurt Gödelはカフェイン中毒でした。数論や離散数学など幅広い分野で活躍した放浪の天才数学者Paul Erdösは覚醒剤のアンフェタミン中毒でした。しばしば「天才」と呼ばれる頭脳労働の人たちが、もの凄いストレスを、こうした手軽な嗜好品で上手に解消、緩和出来ない場合、自殺や発狂など、しばしば不幸な結末に至っています。今、思いついただけでも、Friedrich Nietzsche、Georg Cantor… 枚挙にきりがありません。

私の勤める研究所で全面禁煙を強行しようとする人たちは、一体、何が目的でこうした馬鹿馬鹿しい措置を研究者に強制するのでしょうか。

頭脳労働の強いストレスから解放されるために、タバコは手頃で最高の嗜好品です。全面禁煙を研究者に強制することが、立派な研究業績につながるとでもいうのでしょうか。

私は、こうした愚かで馬鹿馬鹿しい措置を強制してくる管理部門の職員に対して、激しい怒りが募っており、今では彼らに殺意さえ感じております。

私は、学者の良心を賭けて断言します。私の勤めるこの研究所は、今後は、理論物理の研究では、どうでもよいような二流、三流程度の成果にとどまり、真に卓越した研究成果は望めないでしょう。なお、この研究所の運営には、毎年、莫大なお金が、納税者が納める税金の中から支払われています。

私の研究室のほぼ半数は指導教員を含めて愛煙家もしくは喫煙者です。タバコを吸わない女性もおりますが、彼女は研究室内に立ちこめる紫煙に一度も苦情を言ったことはありません。「煙草の煙は、強いて言えば、好きではないけれども、誰かが吸ってもちっとも構わない。どうぞご自由に」と言っています。

(※註)Ebenezer von Scrooge氏への迫害のおそれを考慮して、研究所名は伏せました。

(日本パイプクラブ連盟事務局訳)
Ebenezer von Scrooge
2008/01/08