禁煙ファシズムにもの申す

禁煙ファシズムにもの申す

「禁煙強制タクシー」崩れ始める

まず大分から全国各地に拡がった暴挙、利用客に問答無用で禁煙を強制する傲慢なタクシー、即ち「禁煙タクシー」が早くも各地で綻びをみせているそうです。大分ではタクシー乗り場で「禁煙なら乗らないよ」と乗車前に通告すると、「どうぞ構いませんから、遠慮なく吸ってください」という運転手さんが増えているそうです。電話でタクシーを呼ぶときも「私はタバコを吸うから、禁煙タクシーはお断り。タバコを吸えるタクシーを回してくれ」とタクシー会社に依頼すると、野暮な「禁煙マーク」が貼ってあるけれども、実際は自由にタバコを吸えるタクシーを配車してくれるとか。

東京でも、乗客が無法な禁煙強制に抗議して「私はタバコを吸いたいんだ」と言うと、「どうぞ遠慮なく。ただ会社には黙っていてくださいよ」と言う運転手さんが増えているそうです。神奈川の事例は聞いておりませんが、おそらく同じようなものでしょう。

今年3月に禁煙強制タクシーを一斉に始めた福岡では、喫煙者の酔客とのトラブルが続発して、「禁煙タクシー」でプカプカ、タバコを吸っても何も言わない運転手さんが増えていると聞きました。私自身の経験と、友人連からの報告ですので、間違いありません。

鳴り物入りで始まった「禁煙タクシー」の実態はこうなっているということです。

私は、どうせこんな馬鹿な運動は、長続きはするまい、と思っておりました。

江戸時代には幕府が、タバコ嫌いの老中が合議して数十回も庶民の禁煙令を出したそうですが、ご存知の通り、まったく守られなかったわけですから。

「タバコを吸えば死刑か懲役に処す」とでもいうような無茶な法律でも制定されない限り、こういう他人の趣味趣向を強制的に禁止する暴挙が長続きするはずがありません。

なんでも「禁煙タクシー」への一斉切り替えで、タクシー会社は水揚げが大幅に落ち込んでいるそうじゃありませんか。

タクシー料金値上げのせいもありましょうが、運転手さんと話していたら、1年ほど前と比べて水揚げが1割から2割も減っていると聞きました。

嫌煙クレーマーさんたちだけが喜び、成人男子の4割が喫煙者である実態を無視して、禁煙を強制するわけですから、不快に思った乗客がタクシーになるべく乗らないようになるのは、当然の話です。

ちなみに先頃、このホームページに投稿なさったパイプ愛煙家の伊達国重さんが命名した「嫌煙クレーマー」なる言葉は、実態を言いえて妙です。

「禁煙ファシズム」とか「禁煙ナチズム」とかの、なんとなく高等で思想的な言葉は、インテリさんにはピンときても、普通の人にはわかりにくい。「嫌煙クレーマー」という言葉が、昨今の異様なタバコ狩りを推進している連中の本質をよく表していると思います。

ところで、まことに嫌な話を聞きました。

こないだ、深夜、新幹線を降りて東京駅前丸の内口で客待ちの「禁煙タクシー」に乗りましたが、乗る前に「私はタバコを吸うよ」と運転手さんに声をかけてパイプを取り出すと、「どうぞ、どうぞ。お客さん。パイプは珍しいですね」ということで、すっかり打ち解けてのタバコ談義となりました。運転手さん自身も愛煙家で、乗客がいない時は車内で時々タバコを吸っているのだそうです。

その運転手さんが「密告が奨励されているんですよ」と言うのです。

「密告って一体、何?」と尋ねると、

「タクシー運転手の中でタバコ嫌いの連中が、同僚の運転手を『禁煙がルールなのに、あの運転手は客に吸わせている』、『あの運転手はタバコが止められなくて、自分でも隠れて車内でタバコを吸っている。タバコの匂いを消すために、強力なスプレー式の消臭剤を買って、誤魔化している』とか、会社にタレ込む奴がいるんです」という。

「へー。嫌な感じだね。そんな下劣な密告野郎は、運転手仲間で爪弾きにされるんじゃないの?」

「大体、タクシー運転手の8、9割は、タバコを吸いますから、吸わない連中の方が少数派です。ところが、こいつらの中にはごく一部ですが、他人の喫煙を異様に目の敵にする奴がいます。そういう奴の中には、会社で上役の覚えを良くするために、仲間を売って密告するのがいるんです。自分じゃ正義の行動をとっているつもりなんでしょ。会社でもひそかに奨励しているようですしね」と吐き捨てるように、説明してくれました。

この「禁煙タクシー」の運転手さんは、タバコ嫌いの同僚に、既に何度か会社に密告されていて、会社の上司から睨(にら)まれ、首が危なくなっているそうです。

実に嫌で、怖い話です。

職場の同僚や友人、はては家族の密告を奨励したのは、共産圏の諸国です。かつてソ連や中国、東独、北朝鮮などでは、職場の同僚や友人だけでなく、小中学校の教師が、教え子に親の反政府的な言動を密告するように勧めました。血を分けた自分の子供の密告で、処刑されたり、強制収用所に送り込まれた例がたくさんありました。

経済発展のために資本主義を崇めるようになった中国ではさすがにもうないでしょうが、北朝鮮あたりでは今でもあるかもしれません。ナチスドイツやファシストイタリアでも、秘密警察への密告は当然あったでしょうが、その規模や程度において、共産国に比べれば、かわいいものだったと思います。

共産圏諸国の場合は国家権力=共産党が密告奨励の暗黒社会を作り上げ、国民の連帯心をずたずたにし、徹底した相互不信の恐ろしい社会を作り上げたわけで、日本の一民間企業であるタクシー会社の密告奨励と同列に論じるべきではないでしょうが、それにしてもこのタクシー会社の経営者は一体何を考えているのかと思いました。

一方的で無理で無茶な「ルール」や「マナー」を強制すると、遵守させるためにはこうした密告という陰険な手法を使わざるを得なくなるという好例です。

 「あっしが会社を首になったら、あのタレこみ野郎らにケジメをつけます。誰がタレこんでいるのかわかっていますから……。ゴキブリ野郎が、3匹いるんです」と凄みました。

私が「ケジメとは?」と尋ねると

「まあ、お客さんのご想像にお任せしますが、殴る蹴るくらいでは済みませんよ。きっちり落とし前をつけます」と凄みのある返事でした。この運転手さんは屈強な体格。腕にもそれなりの覚えがありそうです。

「落とし前」とは、おそらく腹立ち紛れの冗談かもしれませんが、タバコ嫌いの密告屋への憎しみの念は激しく本物と感じました。

「まあ、あまり物騒なことはしない方がいいよ」と、やんわりたしなめたところで、拙宅に着きました。

タバコと喫煙が完全に合法であり、自由に市販されている以上、タバコ好きとタバコ嫌いが、社会で共存していくには、どこかで譲り合って、折り合いをつけるしかないはずです。愛煙家で無制限な喫煙の自由を唱えるものはおりません。だから、「分煙」ということで折り合いがついた筈でした。

ところが、全体主義志向の嫌煙クレーマーさんたちが、しつこく声高に全面禁煙を言い募り、愛煙家に問答無用で強制しています。徒党を組んだクレーマーさんたちの圧力に屈する公共団体や企業が増えています。

こうした不快な連中に対する愛煙家の怒り、憤りが爆発して、不幸な事態にならないことを心より願うものです。

それにしても、本当に嫌な時代になったものです。

ところで、日本財団会長の笹川陽平さんが、「タバコ値上げで一箱1000円に」と産経新聞の正論で提案して物議を醸しています。看過できないので、後日、改めて論じたく思います。

そこで一言だけ。

陽平さんのご尊父の笹川良一さんには、私も生前に何度かお目にかかったことがあります。眼光炯炯たるド迫力の親分肌の国士でした。笹川良一さんがじろりと睨むだけで、運輸省の次官や局長連中がぶるぶる震え上がっていたものです。一喝されて小便をちびった運輸省の高級官僚がいたという話も聞いたことがありました。私も良一先生の豪傑ぶりを「凄いなぁ」と畏敬の念をもって眺めておりました。泉下で良一先生は、わが子の不明を恥じておられると思います。

愛煙幸兵衛
2008/04/04