禁煙ファシズムにもの申す

禁煙ファシズムにもの申す

子供の健全教育って?  ―その3―
<承前>

運動服を着た教員らしき男二人と女一人が、拙者目掛けて猛然と駈けて来ます。男の一人はなにやら長い棒を持っています。

「この人よ!」

女が拙者を憎々しげに指差しました。

拙者は棒で殴られないように腰を落として身構えました。男が棒で殴りかかってきたら、横にするりとかわして、跳び蹴りを顔面に叩き込むつもりです。正当防衛に該当するかどうかなどの難しい理屈は抜きに、長年鍛え抜いた肉体が、攻撃されたら反撃するように自然と動いてしまうのです。

男二人は拙者の前で急停止しました。よく見ると、男の一人はやや年配風。棒を持っている奴は若造です。巨体の女は男二人の後ろに控えて拙者を睨み付けています。年配の男は久々に走ったのか、少し息を切らしています。

攻撃されたら、どういう順番に反撃しようか。一瞬、脳裏をかすめました。

すると……

「保護者の方ですか? 私は○○主任の○山○兵衛です」と年配の男が軽く会釈をしながら挨拶しました。

おや、まあ、穏やかじゃありませんか。最初からこういう風に言われれば、拙者も切り口上、喧嘩腰にならずに済むのです。

「ええそうです。私は六年△組の△山△太郎と、五年□組の△山□子の父親です。子供が、いつもお世話になっております」と挨拶して頭を下げました。

棒を持っている若造と巨漢女は黙っていて、名乗りません。恐らくこの若造氏も巨漢女氏も教員でしょう。このお二方、これまで、果たしてどういう躾を受けてきたんでしょうか? これで児童にきちんと躾教育が出来るのやら?

余談ですが、大分県で教員採用試験を巡る贈収賄事件が明るみに出ました。大分県の教育局の幹部連中が収賄で逮捕され、小学校の女校長が息子と娘を教員にするのに賄賂を贈って、教員採用試験の点数を嵩上げさせて、合格にしたとのことです。公立学校教員のボンクラ子弟ばかりがなぜか不思議と公立学校に採用され、優秀なやる気のある教員志望者が意外にも採用試験に落ちて、時間給講師などに甘んじたり、私立学校に就職するという話は昔からありますし、今でもよく聞きます。

断言しますが、公立学校の教員採用試験を巡る不正、贈収賄は全国津々浦々に「慣行」として蔓延していて、大分県の事例は氷山の一角に過ぎないでしょう。

公立学校の採用試験制度は芯から腐りきっているのです。こういうコネ採用教員連中が、「教育は教師と生徒が共に育つことだ」などとウソと偽善を撒き散らし、子供たちにルールを教えて訓戒を垂れているのですから、とんだお笑い種です。

閑話休題。

「このお二人さんは、どういう方ですか?」

黙って名乗らないので、主任氏が紹介しました。どうでも良いことなので、忘れてしまいましたが、若造の方は、何とかの係り。女は別の係りだそうですが、いずれもこの小学校の教員です。お辞儀もせずに拙者を睨み付けています。若造の方はまだ隙あらば攻撃するぞという不穏な気配を示していますので、拙者も警戒を緩めません。

とは言え、愚かな流血の暴力沙汰は避けられそうで、拙者も少し安堵しました。

無茶な言いがかりを付けられた上での正当防衛とは言え、小学校の校庭で教員三名を叩きのめして新聞沙汰になったら、いくら自由業の身とは言え、世間で後ろ指さされて肩身が狭くなります。

拙者はアマチュア格闘技の世界では、少しは知られた名前です。もちろん急所は外して手加減はしますが、当たり所次第では重傷になるかもしれません。

普段はいたって仲の良い警察も、拙者の過剰防衛と判断して逮捕勾留せざるを得なくなるかもしれません。出来の悪い息子と娘だけに、教員連中にますます目の敵にされ、いじめられて転校せざるを得なくなるでしょう。

世間のサラリーマン諸氏が、怒りを抑えて様々なことをなぜ我慢しているのか、よくわかります。

パイプの先輩方が「一番弟子君。君は自由業だから、自由に誰とでも喧嘩できて、まことに羨ましいよ。サラリーマンという宮仕えの裃を着ていると、会社や役所の看板があるから怒髪天を突くほど腹が立っても、そこはぐっと我慢しなくちゃならないんだよ」とよくおっしゃいますが、確かに拙者をはじめとして自由業、即ち医者や弁護士などの日頃「先生、先生」と言われている方には人間が未熟で我儘者が目立つのは事実です。反省、反省。

「それで、私に何か御用ですか?」おもむろに聞きました。

「この人がルールを破って、私が止めて下さいと頼んだのに、無視してタバコを吸い続けるのです」後ろから女教師がわめきました。

「君は黙っていなさい」主任氏がピシャリと叱り付けました。

おやおや、なかなか立派な主任さんです。礼儀正しく、ものの道理もよくおわかりのようで、いささか好感が湧きました。左翼教員組合支配のこの学校でも、亀の甲より年の功とやらで、年配になるとやはり人間が出来てくるようです。

「では、私から伺います。学校の敷地内でタバコを吸ってはいけないと、このご婦人の教員さんがおっしゃいました。あなたからご紹介頂きましたが、このご婦人の教員さんは、ご自身からはお名前は言えないそうですので、こういう言い方で失礼します。何やら学校で決まったルールなのだそうです。そこで、その禁煙ルールとやらは、部外者である私にも強制されるものなのですか?」

「いいえ。強制という筋合いのものではありません。禁煙をお願いしているものです」

主任さんが丁寧に答えます。

「そうでしょうね。当然です。学校から授業参観に来て下さいと云う案内を頂いた部外者である私が、強制される筋合いはありません。お願いということならわかります。お願いなのですから、私にはそのお願いを断る権利もあるし、あるいは、協力してパイプを吸わないという選択肢もあるわけですね。要するに任意な訳だ」

「まあ、そういうことになります」

「その『まあ』、とはどういうことですか? 言葉尻を捉えるつもりはありませんが、『まあ』の意味をご説明ください」

「特に意味はありません…… 私は学校の教育指導の責任者として部外者の方にも協力を強くお願いしているので、当然従っていただけるものと考えております」

「あれれ? さきほど、あなたは強制ではないとおっしゃった筈だが、やはり強制するということですか?」

「いえ、強制ではありません。あくまで協力をお願いすると言うことです。良識ある方なら、当然、ルールを守ってくださり、従っていただけるものと信じております」

「すると、禁煙のお願いに協力する部外者は良識ある人物で、協力を拒否する私のような男は、良識の欠如した無頼漢という仕分けになるわけですか?」

「いえ、保護者の方をそういう風に考えてはおりません」

「いえ、考えておられるようですな。私は、良識の無い無頼漢扱いで結構です。私が無頼漢、それも札付きのゴロツキであるという前提でお話ししましょう」

なにやらまた雲行きが怪しくなって参りました。

「そこで伺いますが、学校敷地内全部を禁煙にすると言う根拠は一体全体何ですか? 教室や職員室、校長室など不特定多数の教員や児童が集まる場所で禁煙というのなら一定の合理性があり、私のような良識のない無頼漢でも理解できますし、愉快ではありませんが、禁煙のお願いにはきちんと従います。しかし屋外の校庭や通路までも禁煙と言うのは理解できません。だからお願いとやらをお断りしたわけです」

「タバコは子供にとって良くないので、学校内では止めていただきたいということです」

「だから、それはお願いでしょう? 断ってはいけないのですか?」

「良識ある保護者の方で、断られる方はいないと信じております」

「あなたが、どんなことを信じようようと、あなたの勝手ですが、私は先ほども申し上げた通り、あなた方が勝手につくった理不尽なルールとやらに従うつもりはありません。屋外の校庭や通路で禁煙を強制する根拠を明示して頂きたい」

「学校の敷地内だからルールを作って良い筈です。学校としてルールを作る権利があると思いますが、違いますか?」

「違いませんよ。どうぞお好きなだけルールをたくさん作って下さい。ただ、そのルールとやらは学校の教職員、児童が従うべきルールであり、私のような部外者に強制される筋合いは無いと申しているのです」

「いえ、学校にお出でになって頂く以上は、ルールに従っていただきます」

「私は好きで学校に来たのではありません。土曜日に授業参観をするから父親も是非来て欲しいというご案内を頂いたから来ただけです。ルールに従わない無頼漢保護者は目障りだから帰れというなら今すぐに帰ります」

「授業参観には是非出て頂きたい。しかし煙草は遠慮して頂きたい、と申し上げているだけです。私の言っていることが、どこかおかしいですか?」

「おかしいですな。理不尽極まります。私は校庭や通路で煙草を吸うなというルールは合理性が無いから、従わないと申し上げているだけです。あなたは、このルールは部外者に対してはあくまでお願いであって、強制するものではないと最初にはっきりおっしゃった。ところがいつの間にか、強制ということにルールの内容をすりかえている。あなたの理解では、日本語でお願いと強制は同じ意味なのですか? 授業で、そう児童に教えているのですか? もしそうだとしたら、失礼ながら、あなたは思考が著しく混乱されている方のようですな」

「…………」

この年配の教員氏はしばし沈黙。思考が混乱なさっているようで、私に反論できないようです。後ろのお二人も黙っています。

「では、遠慮せずにパイプを吸わせていただく」

先ほど、一度消したパイプにマッチで再び火をつけました。ああ、美味しいなあ。着火につかったマッチ棒は火を消してマッチ箱にしまいます。狂人のような嫌煙家から言いがかりをつけられないためもありますが、拙者はいつもマッチで着火した後は、こうしています。

すると……

「タバコは止めていただきたい」何やら凄んだ声で年配教員氏が言いました。先ほどの無理に冷静さを保とうとしていた声音とは違い、しゃがれ声です。顔を見ると目が据わったような表情です。

怒っているようです。不当な言いがかりをつけられて怒りたいのは、本当は拙者なのにねぇ。常に冷静な人間は損をします。

「おやおや、おっかないですなあ。怖くてブルブルしちゃいます。あなた、目が据わっていますよ。せっかくのご要望ですが、パイプは止めませんよ。お願いはお断りします。理不尽なルールは拒否します」拙者は一蹴しました。

それまで黙っていた棒を握っていた若造教師が、突然、猿のような奇声を張り上げました。

「タバコ、止めろよ!!!」知性の欠如した人間もどきのごとき物言いです。

「君は一体、誰に向かって、ものを言っているのかね。君ごとき若造からそんな下品な言い方をされる筋合いは無い。少しは礼儀を弁えたまえ」ビシッと叱り付けました。

この若造君も何やら勝手に興奮している様子です。棒を握った右手と右腕が微妙に震えています。どうやら攻撃の予兆のようです。

他人に、勝手な「ルール」とやらを強制したり、言いがかりや因縁を付け、反論されて論破されると勝手に興奮して威嚇的な物言いをしたり、暴力に訴えようとする。まるでヤクザ者の行動そっくりです。

またまた険悪な雰囲気になってきました。最近は、喫煙者にいきなり唾を吐きかけたり、蹴り付けたりする凶暴な嫌煙ナチスさんが増えていると聞きました。ナチスの突撃隊(SA)そっくりの行動パターンです。そのうちにタバコを巡って血を見ることになるでしょうな。

狂信嫌煙ナチスさんや嫌煙カルト集団とは断固闘わなければならないというのが拙者の信念です。相手が暴力に訴えてきたら、実力で阻止して反撃するのみ。

武闘派として怯むわけには参りません。

(駄文を読んでくださる読者の皆様。実は当初は、この第3回で終わるつもりでしたが、記憶の辿れる限り、この馬鹿騒ぎを再現しようと思いますので、まだ続きます。次回が本当の最終回ということで、なにとぞご勘弁下さい)
愛煙幸兵衛一番弟子
2008/07/09