オフィスに近い新宿の街を火が点いていないパイプを銜えて歩くと、腕章をした二人組が「喫煙を遠慮ください」とやってくる。警官OBとおぼしき二人組に「なんでイケナイのか?」と聞く。「環境問題です」という。「ほう、それでは一日何万台も走る新宿通りの車の排気ガスは何故取り締まらない?」、「それは、われわれの仕事じゃないです。」という返事。「君たちは、これで給料もらっているのだろう?」、「ハァー、少々。」、「その金は、新宿区に落ちるタバコ税からだということを知っているか?」、
「・・・・・・・。」
二人組に「君たちはタバコを吸わないのか?」と聞くと一人は吸わないとの答えだが、一人は「吸います。ここにしまっています。」と上着の内ポケットを指す。「君、隠したりせずに、堂々と吸いなさい。」というと「有難うございます。」と云って、立ち去った。その後は白髪の小生を遠くにみとめると、コソコソと近くの角を曲がってしまう。
筆者が住む神奈川県の松沢知事が「公共的施設における禁煙条例」なるものを発表した。7月の「県のたより・特集号」にストップ!ザ受動喫煙という文字が躍り、“受動喫煙はこんなに危険!とするコラムには次のように書かれている。
火のついたたばこから流れる副流煙には、より多くの有害物質が含まれています。
そのため受動喫煙は肺癌や心臓疾患など、多くの病気の原因になります。
主流煙より危険な副流煙
タール |
3.4 倍 |
たばこの“やに”の原因物質。ベンゾピレンなどの発がん性物質が含まれています。 |
一酸化炭素 |
4.7倍 |
赤血球のヘモグロビンと結びつき、酸素運搬機能を阻害します。 |
ニコチン |
2.8倍 |
喫煙をやめにくくします。また、心拍数の増加、血圧上昇、末梢血管の収縮を引き起こします。 |
アンモニア |
46.0倍 |
粘膜を刺激し、涙が出るなどの原因となります。 |
このオカシナ数字に疑問を抱き、県の‘健康増進課’という奇妙な名称の課へ電話をする(045−210−4780)。住所氏名・電話番号を伝えたうえで、出てきたO課員に「君たちが云うところの副流煙の定義はなにか?」と問うと「火が点いたタバコの先から出る煙です。」と答える。「とすると、君たちが云う受動喫煙とは、タバコの火が点いている部分に口・鼻を持っていって吸うことか?」、「いいえ、流れてくる煙を吸わされることです。」以下はその一問一答である。
「それは、おかしいだろ。ここに書いてある危険な副流煙としてタール3.4倍などと挙げてあるのは、火先からでる煙の濃度の表記だから受動喫煙には関係ないのだな?」
「・・・・・・・・。」
「要するに君たちは火先から出る煙は非喫煙者の口・鼻に達するときには非常に希釈されることを隠して、危険意識を煽る一種の詐欺行為ではないのか?」
「それは・・・・・その、部屋の広さや、温度、空気の流れによって一定ではないので・・・・。」
「そんなことは分かっている。ここに書かれている文面では3.4倍のタール、4.7倍の一酸化炭素をそのまま吸わされるから喫煙者より危険だということではないか?」
「・・・・・・。」
「税金を使って、このような詐欺めいた広報を配るのは非常に問題だ。」
「ボリュームでタバコの煙の数千倍以上を排出している自動車に言及しないのは、自動車工業会から金でも出ているのではないか?」
「決してそんなことはありません。公用車は電気自動車にするなど対策を考えています。」「ほう、それなら君たちだけが役所内で禁煙すれば良いではないか?」
「・・・・・・。」
「日本の自動車の排ガスコントロールは進んでいるとする人がいるが、これは光化学スモッグが騒がれて、やっと対応したNOX(窒素酸化物)の問題だ。」
「タバコの煙が嫌いな人の前や傍で喫煙を遠慮するのは、マナーの問題であって、マナーを条例や法律で取締まるのは問題だろ。」
「いえ、マナーの問題ではなく健康を守る立場です。」
「ほう、健康問題だとすると、先進工業国の中で最も喫煙率の高い日本が最も長生きだってのはどういうことだ?」「しかも、厚生省が出していた資料では、肺癌罹病率は米国、イギリス、ドイツなどの半分以下ではないか。」(「国民衛生動向」厚生統計協会、1994〜2002)「もっとも、デタラメ厚生省の発表だから要注意だがね。」
「知りませんでした。」
「そもそも、喫煙と健康の問題は1960年代の終りから1970年代にかけての米国が発信元だが、自動車の排気ガスが問題になろうとしていた頃に献金が自動車業界より少なかったタバコ業界がスケープ・ゴートにさせられたとする見方は米国では常識だが、知っているか?」
「それも知りません。」
「日本でも自動車工業会がマネーロンダーリングよろしく迂回して嫌煙団体に払っていたことは、周知の事実だが、近年尻尾を捕まれそうになって止めたそうだ。」
「・・・・・・。」
「喫煙と健康に関する論文は海外も含めて非常に多数出されているが、嫌煙派は彼らにとって都合の良いほんの一部を錦の御旗に掲げているに過ぎないのだよ。」
「はあ。」
「副流煙なるものは、かの有名な平山博士によるものだがWHOは一旦、副流煙なるものの健康に及ぼす影響は認められないとする結論をだしている。」
「初めて聞きます。」
「日本のマスコミは、ヒステリックな嫌煙派が怖くてあまり取り上げなかったようだがね。ところが、この時のトップは日本人の中島博士だったが、引きずり降ろされてノールウェーの女性運動家が新しく選ばれた。」
「・・・・・。」
「一体君たちは、主流煙より危険な副流煙のデータは何処から手にいれたの?」
「厚生労働省です。」
「へぇー!発表すること全てがデタラメな厚生労働省をまだ信用しているの?」
「・・・・・・。」
「いいですか、厚生労働省は1ヶ月ほど前に、喫煙者を配偶者に持つ人の肺癌罹病率は2倍と発表している。」「こんな非科学的、非論理的発表をするところですよ。」「自営業か年寄り夫婦で一日中一緒に暮らしている場合を除いて、夫婦の多くは睡眠時間と休日以外は、一緒に過ごす時間はせいぜい3時間程度だろ。」「君の場合はどうだ?」
「そんなところです。」
「この調査をやったのは、築地の国立癌センターの若い女性研究員だが、パラメーター設定がいい加減な疫学調査の好例だろう。」「どうだ、少しは勉強になったか?税金で君らを雇っているのだから、もっとまともな仕事をしてもらいたいな。」
「はい、ご意見は伺いました。」
「それが、君ら小役人の口癖だ。」「チャント知事の松沢君に伝えてくれ。彼は、ここが選挙区だからな。」「そうそう、ついでに松沢君に云ってくれたまえ。国会にでるときに、毎朝のように駅前でハンドマイクを使って怒鳴っていた、『横浜の市営地下鉄を新百合ヶ丘まで伸ばします』ってね。それで当選したんだが、彼はまだ約束を果たしていないよ。神奈川県知事になったんだから、以前よりやり易いだろう。早くやってくれって。」
「私の口からはチョット・・・。」
「そうか、では松沢君に云ってくれ。タバコと地下鉄の問題で私のところへ電話をするように。」
「ハァー。」
ジャン・ニコー・コンフレリー(仏)会員
鈴木 達也 |