10月3日付けの朝刊各紙を読んでいたら、癌の５年生存率をホームページ上で公表という記事が掲載されていた。地域の癌治療の中核を担う全国の32の病院が加盟する「全国がん（成人病）センター協議会」が、病院ごとの治療成績を知りたい患者や家族の要望に応える目的で公表したそうだ。

昔から「医者を選ぶのも寿命のうち」という諺があるように、一般人にとって受診しようと思っている医者が、果たして名医か、藪医者か、あるいはとんでもない莫迦医者かを知る手段は乏しい。病院も同じだ。だから医療関係に特別なコネクションでもない限り、庶民は、あやふやな「評判」や知名度、交通の便、病院の大きさ、週刊誌情報などに頼って病院選びをするしかないのが実情だ。

だからこうした医療機関の実力をある程度反映する客観的な指標を公表されるのはとても望ましい。こうした取り組みは癌の中核病院だけにとどまらず、一般の病院も対象にして類似の医療力の指標作りをどんどん拡大して欲しいものである。多くの藪医者やお粗末病院は、その力量が白日の下に曝されると困るので、色々と理屈を捏ねて抵抗するだろうが……。

ところで、これらの記事には「５年生存率の数字の一人歩きは困る」旨の註釈がこの協議会の言葉としてわざわざ強調されていた。言われるまでもなく、数字の一人歩きは甚だ宜しくない。誤った判断に直結する。

癌患者の癌の進行度合いや症状は各人で異なり、極めて複雑だから、5年生存率が数字の上では高いからと言って、必ずしもその病院の実力が高いことを意味しない。進行癌患者や末期癌患者の受け入れが多い医療機関と、そうではない医療機関では単純に5年生存率を単純に比較しても意味はない。当たり前のことである。

ところが、あやふやな数字の一人歩きを煽りに煽っている医者たちがいる。タバコ嫌いの医者たちだ。

一例を挙げると、最近の読売新聞の一面に某癌センターの名誉総長なる肩書きの医者が寄稿していた。私は、この名誉総長さんとやらが、医者としてどういう人なのか、全く知らない。ノーベル賞級の研究実績や優れた治療実績を持つ立派な名医なのかもしれないし、単に学閥や閨閥の引きや世渡りの巧さなどの政治力でのし上っただけの御仁かもしれない。しかし発行部数１０００万部とかいう読売新聞が１面に大きな扱いをしたくらいだから、恐らく医者の業界では、とてつもなく偉い医者というランク付けなのだろう。

この名誉総長さん、冒頭から大上段に振りかぶって曰く

「現在、日本人の死亡原因の一割はたばことされている」

「毎年、１０万人を超す人がたばこを原因に亡くなっていることを皆様はご存じだろうか」

私は、タバコ嫌いの医者たちの嫌煙発言には食傷気味である。専門家の意見は謙虚に傾聴すべきだし、また尊重するが、タバコに関する彼らの嫌煙押し付け、禁煙強要の類の偉そうな御宣託は、本当の深い教養の欠如と視野の狭窄に基づく単細胞思考を端無くも露呈しているものだと受け止めている。

平たく言えば、彼らは概して考えの浅い「専門馬鹿」であり、発言にいちいちまともに取り合う必要は無い。「はいはい」と聞き流しておけば十分だ。だから、普段はこの手の医者の新聞や雑誌への寄稿記事は、時間の無駄だから一切読まない。

とはいえ、ここまで鬼面人を驚かす類のことを面写真付きで臆面もなく書かれると、馬鹿馬鹿しいとは思いつつも、つい釣られて読んでしまった。

「読んで損した」。これが感想。

繰り返して引用する。

「現在、日本人の死亡原因の一割はたばことされている」

「毎年、１０万人を超す人がたばこを原因に亡くなっていることを皆様はご存じだろうか」

これこそ、因果関係がはっきりせず、解釈も大きく分かれる疫学調査の結果の数字を、強引に我田引水したマジックやトリックの数字の類ではないのかね？

「数字の一人歩き」どころか、数字を暴走させて、読者を意図的に誤導する記事ではないのかね？　

タバコを非合法化して全面禁止すると、日本人の死亡者は1割減るのかね？

10万人と言わないから、10人、いや本当に１人でも良いから、死亡診断書の死因の欄に「タバコ」や「喫煙」と書いてある事例を教えて欲しいものだ。

疫学調査結果から、どうすればこんな断定した数字を導き出せるのかな？

私は、はっきりものを言う人が好きだが、それにしても、思考の省略というか、単細胞思考というか、よくもマァ、こんなに自信たっぷりに断定調でものが言えるものだ。

私は、タバコが健康に良いとは言わない。しかし、人間の死の背景にある複雑で錯綜した様々な要素を大胆に捨象し、ここまで極端に単純化して「タバコが犯人です」と言って良いのかな？　神様じゃあるまいし。

とてつもなく偉いお医者様であることは、よく分かりました。ですから、大衆向けの新聞への寄稿とは言え、謙虚さと慎重さを持って書いて欲しいものですね。

今度、読売新聞1面で是非読みたいのは、葉巻好きだとか仄聞するドンのナベツネさんと、タバコ嫌いのこの名誉総長さんとの対決討論記事だな。