禁煙ファシズムにもの申す
タバコ増税に反対しない | ||||||||||
近ごろ、タバコを増税して千円にしろなどと、国会あたりで議論されているが、私は、増税反対の署名運動をしているのでと言われたら署名するが、自分から積極的に反対する気はない。 なぜなら、そんなものに反対してしまうと、まるでこれまでの喫煙者迫害を認めるように見えかねないからである。千円というのは高すぎるが、七百円くらいなら、カナダにいた時はそれくらいしたし、以下の条件を呑んでくれるなら、上げてもいいと思っている。 条件とは、
まあ、こんなところか。以上を実行(行政指導でできるはず)してくれたら、値上げしてもよろしい。 もっとも当初は、財源確保のための増税だと言っていたのが、タバコをやめる人が出てくるから税収は上がらないと言われると、今度は、喫煙者を減らすためだなどと言い出したのには、まず値上げありきで、まるで理由説明に一貫性というものがない。だいたい、タバコは合法の嗜好品なのに、それをたしなむ者を減らすなどということを政治家が公言するのは、相変わらず差別だし、以前の増税の時に言われたとおり「税を汚す」ものである。 しかも新聞には、十代の喫煙者を調査したところ、千円になっても吸うという答えが多かったので、もっと高くすべきだなどという本末転倒の記事があった。そもそも喫煙は二十歳になってからと法で定められているのだから、調査などしている暇にその未成年者どもを一斉逮捕したらどうなのか。非合法である未成年者の喫煙を減らすためにタバコを値上げして合法の成人喫煙者まで迫害するなどというのは、まるで倒錯した考え方である。それくらいなら、未成年の喫煙には厳罰を下すよう法改正するのが筋であろう。 むろん同様に、未成年の飲酒も厳しく取り締まられなければならない。しかるに依然として、大学生の新入生歓迎コンパでの飲酒による死亡事故などが起きるのは、どういうわけか。二浪でもしているか、一浪で四月に誕生日が来るのでもない限り、大学一年生、時には二年生だって未成年である。それを考えたら、新入生歓迎の席は禁酒にしたっておかしくないはずであり、大学当局は態度を鮮明にして、新入生歓迎の席を禁酒にするよう声明を出し、未成年学生の飲酒に対して厳罰をもって臨むべきであろうに、いっかなそういう声が聞こえてこないのはどういうわけであろうか。 驚くべきは、大学が酒を造って売っていることである。私が非常勤講師をしている東大では、昨年総長裁定によって「東京大学喫煙対策宣言」なるものが出され、敷地内野外での喫煙場所をさらに制限した上、 3.東京大学の敷地内においてタバコの販売を禁止する。 4.喫煙者に対して禁煙指導等の支援をする。 としているが、「4」などは明らかに、趣味嗜好による職員間の差別であって、国立大学法人は独立行政法人として憲法遵守の義務があるのだから、歴然たる憲法違反である。さらに「3」だが、東大は、坂口謹一郎なる酒造博士を記念して東大ブランドの日本酒を造って販売しているのだ。驚くべきアンバランスである。 酒もタバコも薬物である。禁煙は世界的趨勢だなどと言う者がいるが、日本の禁煙ファシズムが欧米と違うのは、酒にはむやみと寛大なところで、欧米では、大学が酒を造って売るなどということはありえない。大学どころか一般社会でも、酒の販売は日本より厳しく制限されている。タバコは販売を禁止し、酒は自ら造って売るとは、何ということであろうか。 酒は少量なら体にいいとか、タバコの煙のように他人に害を与えないとか、また例の屁理屈を持ち出すやつがいるかもしれないが、体にいい程度の少量の酒、などというのが、世の酒飲みの実態でないことくらい、誰でも知っている。酒を少量ずつ呑んでいるなどというのは、医者に止められて仕方なく節制しているか、健康のために養命酒でも呑んでいる者くらいであろう。また他人に害を与えるという点では、酒だって同じである。酒席での酒癖の悪い者に苦しめられた経験のある国民が多いことは、既に明らかになっているし、酒の席へ行って、ある男が次から次へと酒盃をあける時、私のように酒乱に苦しめられた経験のある者は、いつこいつが荒れ始めるかと心中おののいているのだ。それでも、それは精神的なものだろうと言うやつがいるかもしれないが、精神的ストレスは十分健康を害するのである。 いったい、缶ビールやカップ酒の入れ物に、「酒の呑み過ぎはあなたの健康を害します」とか「肝硬変などの原因になります」とか「肝臓がんの原因になります」とか、タバコの箱のように大書してあるだろうか。やっぱり日本はおかしな国である。 小谷野敦:東京大学非常勤講師 比較文学者 学術博士(東大) 評論家 禁煙ファシズムと戦う会代表 |
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2008/11/20 |