禁煙ファシズムにもの申す

禁煙ファシズムにもの申す

常識に還れ

日本パイプクラブ連盟から「禁煙ファシズムにもの申す」欄への寄稿依頼を受けて、どういう切り口で書こうかと、つらつら考えていたら、偶然、朝日新聞の記事が目に飛び込んできた。5月13日付け朝刊の外報面の「特派員メモ」。ニューヨーク特派員の田中光氏による「紫煙とウイルス」と題するコラムである。

 原文を読んで頂いた方が良いが、以下、要旨を紹介する。

  1. ニューヨークの喫煙率が史上最低レベルの15.8%まで下がって市の関係者は大いに喜んでいる。
  2. 一方で非喫煙者の受動喫煙は深刻で、非喫煙者の体内でニコチン関係物質が検出される比率が全米平均の44.9%を上回ってニューヨークは56,7%。ニューヨークは職場に限らずレストランなどで喫煙を禁じた条例を導入したのになぜか?
  3. 市の条例があるので、多くの喫煙者はビルの外で一服する。決まった喫煙所もなく、歩きたばこも珍しくない。街を歩いていると、よく煙たい思いをする。
  4. 昨今のインフルエンザ騒動で市の当局者はウイルスをまき散らさないように「せきやクシャミをするときは口を押えて」と呼びかけている。
  5. しかし、やはり有害なたばこの副流煙についてはまずそうした呼びかけは聞かない。
  6. 屋内できちんと喫煙所を設ければ、屋外の無法状態を改善できると思うが、そんな動きも無い
  7. 紫煙にもウイルス並みの目配りを忘れないで欲しい。

仔細に読めば、「おやおや」とすぐに論理の矛盾と飛躍、さらに牽強付会、そして何よりも朝日新聞の持ち味である嫌味な独善に気付く。が、そこまで真面目に読む必要も無かろう。田中特派員には申し訳ないが、忌憚なく申しあげれば、つまらないコラムである。たばこ嫌いの記者が、洒落たコラムを書く材料が思いつかないから、インフルエンザ問題に引っ掛けて、安直にたばこ攻撃しただけの書きなぐり記事だろう。
読み飛ばせば十分。わざわざ取り上げて論評するに値しないというのが正直なところだ。

しかし、こうした時流に追従するたばこ批判のおびただしい新聞記事ばかりが大手マスコミに掲載される結果、反対論や異論は封じ込められ、山本七平先生云うところの「空気の支配」状況を作ってしまう。そしてその「空気」は、マスコミの報道や論評を無邪気に信じ込む大方の読者を次第に洗脳して、一切の反論が許されない「世間の建前のようなもの」になってしまうから、危険で恐ろしいのだ。

日本の新聞は、科学部の理科系単細胞記者諸君が書きまくるたばこ有害説の紹介記事ばかりである。たばこ有害説に疑問を投げかける研究や調査結果は決して報道されない。最近のWHOや色んな大学でのたばこに関する医学研究、疫学調査は、どこからか補助金が出て最初から有害説を立証する目的でなされるので、研究・調査の前提や内容、結果の解釈に首をかしげるところがあっても不問に付されてしまうという。一種の現代版ルイセンコ学説のようなものだろう。そして、これを真に受けた社会部の考える前に走り出す刹那思考記者諸君が、たばこ有害説をあおる記事を量産する。

新聞報道への懐疑や不信感が以前より高まっているとは言え、善良な日本国民の大半は、「新聞はそんなに間違った報道はしていないだろう」と大筋で信頼している。だから、そうした一面的な記事ばかり読んでいると、いつの間にやら新聞記事から大きく影響を受けてしまう。

こうなると矯激な嫌煙・禁煙運動者の天下だ。頭に血が上ったような人が多いから、たばこ批判をどんどんエスカレート。喫煙者を敵視して人格攻撃や社会的な差別肯定論にまで突き進む。喫煙者への差別是認が徐々に社会的コンセンサスを得つつある。これが現状ではないか。禁煙ナチズムという表現がまさにぴったりだ。

たばこ狩りの集団ヒステリーを煽りまくっているのは新聞なのである。そして日本の公共輸送機関、企業、団体の経営陣は、たばこ狩りの集団ヒステリーにおののいて喫煙者の社会的排除に率先して加担している。

このコラムの筆者の田中特派員も、たばこの副流煙が有害だという宣伝に少しの疑いも持たない。みんなが大合唱しているからだろう。「非喫煙者の体内のニコチン関係物質」とかいう得体の知れないものを、空気感染するペスト菌まがいに描く。社会の木鐸を自ら任ずるなら、こうした風潮に少しは疑問を呈するのが、本物のジャーナリストのはずなのだが。

私はたばこが人間の健康に全く無害だとは言わない。吸い過ぎは良くないと思うし、体調が悪い人や、疾患がある人は止めた方が賢明だ。大人に対してお節介だとは思うが、禁煙の奨励を止めろとも言わない。禁煙したい人はご自由にどうぞ。また、たばこに生理的な嫌悪感を持つ人や体質的に受け付けない人たちの気持ちも理解できる。たばこ嫌いの人や、たばこの煙が苦手な人の前では礼儀として喫煙は控えるべきだろう。

しかし、たばこが好きな人も世の中にはなお数多くいることも忘れてもらっては困る。たばこはちょっと一服で気分が落ち着き、ストレスも解消できる安価な嗜好品であり、社会的な効用は大きいのである。

冷静に考えてもらいたい。所詮、たばこはたばこに過ぎないではないか。個人の趣味趣向の問題であり、とるにたらぬ些事である。たばこに目くじら立てる前に、外交、国防、治安、財政、経済、教育、環境、雇用対策、貧困対策等々、世の中には緊急に取り組まなくてはならない大問題、真剣に考えなくてはならない事柄が山積している。

ところが、専門馬鹿の医者や病的なたばこ嫌いの面々は、たばこの問題が社会が真っ先に取り組まなくてはならない重要問題のように言う。喫煙さえ撲滅できれば、社会のほかの事柄はどうでも良いと言わんばかりである。まさに視野狭窄の極みとしか言いようがない。物事の優先順位が分からない、愚かで、つくづくお閑な方々なのだろうと思う。

たばこが仮に健康に有害だとしても、要は、あくまでその程度と他との比較の問題なのである。たばこの副流煙が有害だと本当に信じているなら、「非喫煙者の体内のニコチン関係物質」とかいう実態の分からない指標を持ち出して素人をたぶらかすのではなく、ディーゼルエンジン車の排気ガス、ガソリンエンジン車の排気ガス、工場の煙突の煙などと比較して、どの程度有害なのかを明示すべきだろう。

私は、たばこの副流煙よりも、自動車の排気ガスを主な原因とする大気汚染が健康にとってはるかに悪影響を及ぼしていると思う。たばこの副流煙を吸い込んで呼吸器疾患になったという話は聞かない。その一方で、東京都内の環状八号線のような幹線道路沿いに住む人には呼吸器疾患や喘息患者が多発しているのが現実ではないか。

私事で恐縮だが、私はほぼ40年にわたって毎日毎晩、たばこをたっぷり吸い続けてきた。頭のてっぺんからつま先まで「ニコチン関係物質」が行き渡っているだろう。しかし、すこぶる健康である。年相応にくたびれてきてはいるものの、人間ドックでも悪いところは見つからない。たばこ嫌いのお医者様には、まことにおあいにく様だ。

ところが支那大陸から黄砂が季節風に乗って飛んでくる時期になると急に喉が痛くなる。家内はたばこは吸わないが、やはり黄砂の季節になると喉の痛みを訴える。昔はそういうことはなかった。経済発展著しい中国では、自動車販売台数がアメリカを上回った。整備不良で排気ガスをもうもうと吐き出す車が走り回って大気汚染が深刻化、さらに工場煤煙や有毒物質の垂れ流しなど猛烈な環境汚染が進んでいるそうである。

その汚染物質が季節風に黄砂と一緒に運ばれてきて、それが喉の痛みを引き起こしているのではないか、と考えているが確証はない。大陸からの季節風がやむ頃になると、私も家内もウソのように喉の痛みは治まる。だが、春になってもたまに大陸から強風が吹いてくると、途端に喉が痛くなる。

たばこ有害説を立証するための研究や調査、世にはびこる嫌煙運動、禁煙運動には、いかがわしい共通点がある。車の排気ガス、大気汚染の問題にはひたすら沈黙することだ。ご自身はたばこを撲滅するのが正義だと信じて啓蒙運動をしておられるつもりなのだろうが、そんなダブルスタンダードで恥ずかしくないのだろうか。

読者諸賢の周囲に、もし嫌煙医者や嫌煙運動者がいたら、試しにその点を問い質してみたらよい。「今は、たばこが健康に悪いという話をしているのであって、大気汚染の話をしているのではありません」あるいは「それは私の専門外なのでわかりません」とはぐらかそうとするだろう。はたまた「話をスリ替えないで下さい」と言うかもしれない。

話をスリ替えているのは一体どちらだろうか。車の排気ガス、大気汚染、環境汚染の問題は、嫌煙・禁煙運動にかかわっている方々にとっては、考えてはいけないタブーらしい。

これらの点について、私なりに色々と調べた結果、示唆に富む話が耳に入ってきた。今回は紙幅の関係で割愛するが、いずれ読者の皆様にご披露したいと考えている。

WHOの研究者さんやたばこ嫌いのお医者さん方にうかがいたい。
「非喫煙者の体内の自動車排気ガス関係物質」を、なぜ調査しないのですか?
「非喫煙者の体内の環境汚染関係物質」を、なぜ調査しないのですか?
調査して発表すると何か都合の悪いことでもあるのですか?

つまらぬコラムに軽く筆誅を加えるつもりが、つい、力こぶが入って大上段に振りかぶってしまった。たかがたばこ、されどたばこということかもしれない。こんなことでムキになっては、矯激な嫌煙運動者と同じ水準に落ちてしまう。自戒したい。

さて、ニューヨーク市の禁煙条例(神奈川県の何とかという名前の小利口な知事が、そっくりパクっていい気になっていると聞く)により職場やレストランでたばこが吸えないなら、アメリカ人の喫煙者は屋外で吸うしかあるまい。田中記者はそれが煙たくて気に入らないそうだ。では田中氏は排気ガスの臭いは平気なのだろうか。

私は筆者の田中特派員を存じ上げないが、秀才才媛が集まる朝日新聞社に入社して花のニューヨークでご活躍なわけだから、それなりの識見のある優秀な記者なのだろう。たまたま目にとまったコラム一つを取り上げて、記者としての資質まで云々するのは公平さに欠けるし、大人気ないから慎みたい。

ただ、一言だけ言わせてもらえれば、たばこばかりを白眼視する風潮に便乗し、高い目線でたばこを批判して、何かいっぱしの見識を示したおつもりらしい氏の新聞記者としての心根が、哀れに思えてならない。

多言居士
2009/05/28