禁煙ファシズムにもの申す

禁煙ファシズムにもの申す

コナン・ドイル生誕150年
平井 修一

伊勢湾台風から50年と聞いて脈絡のないことを思い出した。今年はコナン・ドイル生誕から150年である。

 

伊勢湾台風のときに我が家は床上浸水し、避難の途中に8歳の小生は深みに溺れ、蛆虫、糞尿の汚濁の中で救助された。これで厄が落ちたのか、以来、50年間、何度か死ぬ目にあったが、無事、市井の人として生き延びている。

 

シャーロック・ホームズとドクター・ワトソンの生みの親、コナン・ドイルは明治の人である。生まれは明治維新前の安政5年(1859)、スコットランドの首都・エディンバラ市でとれた。

 

ドイルは医者だが、30歳前後で開業したものの客がつかない。食えない。藪医者かどうかは知らないが、客がつかなければどうしようもない。暇である。

 

パイプを吹かしながら「どうしよう」と思っていたときに恩師を思い出した。推理が好きな先生だった。

 

<この教授は大変正しい診断を下すことで評判がよかったばかりでなく、鋭い観察力で、患者の職業や、家柄や、性質などを言い当てることに妙を得ていた。

 

ドイルはこういう型の人間を探偵にして、思い切り活躍させる小説を書いてみたいと思い、「深紅の糸の研究」(緋色の研究)という物語を書きあげた。これがシャーロック・ホウムズの登場する最初の長編小説となったのである>(林克己)

 

林克己も医者で、「シャーロック・ホウムズの冒険」(岩波少年文庫)

などミステリーものを多数訳している。改めて読んだが、120年ほど前の作品にもかかわらず実に新鮮で、読者をぐっとひきつけて、最後にすとんと納得させる。名手である。

 

ホームズといえばパイプで、煙草を吸いながらあれこれ瞑想するシーンがしばしば登場する。

 

<「これからいったい、何を始めようというんだい」

 

「まず、煙草を吸うことだ。この問題を解くのに、パイプ3服ぐらいかかるかな。50分ばかり僕に話しかけないでくれたまえ」

 

ホウムズはタカに似た鼻を細いひざにくっつけるようにして椅子の中にうずくまり、目を閉じ、黒い陶製のパイプを奇妙な鳥のくちばしのように突き出していました>(「赤毛連盟」)

 

<ホウムズは上着もチョッキも脱いで大きな青いガウンに着替え、部屋の中を歩き回って、ベッドから枕をとり、ソファや肘掛け椅子からクッションを集めてきました。そうして東洋風の寝椅子のようなものをこしらえ上げると、その前に刻み煙草1オンスとマッチ1箱を置いて、どっかと胡坐をかきました。

 

薄暗いランプの明かりの中に、愛用のブライアのパイプをくわえて、ぼんやりと天井の一角を見つめているホウムズの姿が見えます。・・・

 

目を覚ましますと、やはりホウムズはそこに座ったままなのです。夏の太陽がもう部屋の中に差し込んでいました。パイプはなおも加えたままで、煙も相変わらず渦を巻いており、部屋の中にはもうもうとタバコの濃い煙が立ちこめていますが、前の晩そこにあったはずの刻みの山はきれいになくなっていました>(「口のまがった男」)

 

1オンスは28グラムで、小生の3、4日分である。これを一晩で吸うのだからすごい。煙草のもつ覚醒作用で脳みそをフル回転させ、難事件を解きほぐしていく。

 

<ホウムズさん、本当にあなたのおかげで事件もすっかり片付きましたが、一体どうして解決なさったのか、それをうかがいたいものですな」

 

「実は枕を5つ並べた上に座って、刻み煙草を一オンス煙にして、やっとそこへたどり着いたんです」

 

今は禁煙の嵐が吹きまくり、TVドラマや映画、マンガから喫煙シーンが駆逐されそうな勢いで、NPO法人・日本禁煙学会などが盛んに運動しているようだ。いちいち映画をチェックして、煙草が登場するものは「×××」などと☆マークならぬ×マークで評価している。ご苦労なこったい。

 

それはさておき、ドイルが医者として大いに流行ったらホームズは活躍しなかったかも知れず、世界はちょっとつまらなくなったろう。

 

シャーロック・ホームズファンクラブは世界中にあるようで、ロンドンには博物館まであるとか。ホームズが登場する作品はすべて「×××××」で、禁煙推進派は多分読まないから人生を損しているのではないか。

 

ま、余計なことだが。

2009/10/21