禁煙ファシズムにもの申す

禁煙ファシズムにもの申す

ある嫌煙者の話
匿名希望

私と同じマンションに住むある嫌煙者のことをお話します。

数ヶ月ほど前の話です。私が、深夜11時頃帰宅してマンション玄関のオートロックを開錠したら、遅れて玄関に入って来た高級サラリーマン風の中年の男が、私が開けた玄関ドアを先に無言でスーっと通り抜けていきました。マンションの玄関には警備員がいますが、その男にも「お帰りなさいませ」と挨拶したので、同じマンションの住人かなと思い、鍵を開けた私に「今晩は」の一言くらい、それが面倒なら会釈くらいあってもしかるべきだと思いました。しかし立派な教育は受けていても、挨拶もできない人は都会には大勢いますし、その人も何か他のことに気を取られていたのかもしれませんので、その時は特に気にとめることもありませんでした。

先に館内に入ったその男は玄関ロビーとエレベーターの間にあるメールボックスコーナーにさっさと入ったので、私は先にエレベーターに乗りました。折り良くエレベーターが1階に止まっていたので、乗り込み、その男がメールボックスコーナーから出てくる気配もないので、私は住んでいる△階のボタンを押しました。エレベーターのドアが閉まり始めました。

すると先ほどの男が小走りでやってきて閉まりかけたドアに素早く靴の先を挟みました。閉まりかけていたエレベーターのドアが開くと男が郵便物をいくつか握り締めて無言で乗り込んできました。「非常識な奴だな」と思いましたが、そこはぐっと我慢して「今晩は」と私の方から挨拶しました。

すると男は私を無視して○階のボタンを押しました。黙ってじっと私を見つめます。挨拶も出来ない馬鹿とは喧嘩する必要も無いので、私はにっこりと微笑んで視線をそらし、ひそかにその男を観察しましたが、人相風体、みなりはきちんとしており、顔付きは知的なインテリ風の外見は立派な紳士です。
△階についたので、「お先に」に声を掛けて降りましたが、男は無言。会釈もありません。 「うちのマンションにも常識の欠落した奴がいるもんだな」と思い、そのまま帰宅しました。

今の世の中、この程度の非常識な奴は田舎だろうと都会だろうと、どこにもいますから、いちいち腹を立てていてはやっていけません。帰宅して家内に「挨拶もできない非常識な奴が○階に住んでいるけど、誰か知っている?」と男の身なり、風貌などを伝えましたが、「しばらく前に引っ越してきた人じゃないかな? 思い当たる人はいない」とのこと。そのまま男のことはすっかり忘れていました。

先日、マンション内で見かけるいつもの掃除のおじさんに代わって、30歳過ぎくらいのご婦人が掃除をしていたので、家内に
 「あれ? いつもの掃除のおじさんは辞めたの?」と聞くと、
 「辞めさせられたそうよ。あのおじさんが昼休みに北側の裏庭の隅でたばこを吸って休憩していたら、見咎めた住民がクレームをつけて管理会社に辞めさせろと電話してクビになったんだって」と言います。
 「休み時間に中庭でたばこを吸ったくらいで、いきなりクビにするとは無茶だな。行き過ぎだろう。あのおじさんは真面目で感じが良い人だったのに」
 「クレームをつけた人が嫌煙運動みたいなことをやっている人で、もの凄い剣幕で管理会社に苦情を言ったそうよ」
 「誰だい、そいつは?」
 「ほら、あなたが○階に挨拶も出来ない非常識な人がいると以前言っていたけど、どうも、その人みたいよ。お医者さんで、どこかの医大か病院に勤めているんだって。いつもそっくり返っている奴で、マンションの中ですれ違っても、フンと無視して挨拶もしない人なんだって。近所で凄く評判の悪い人」
 「ああ、あいつか。ふーん。やっぱり、とんでもない奴なんだな」

こんな感じで夫婦の会話が終わりましたが、私の住んでいるマンションはたばこに関する規則と言えば、エレベーター内ではご遠慮くださいという程度。細い公道に接している裏庭の隅っこで、たばこを吸っていけないという規則はありません。そんな些細なことを理由に管理会社に苦情を言って、掃除人を好き勝手に解雇して良いはずがありません。私は、たばこ排除の動きがエスカレートした結果、喫煙者敵視の異様な風潮が、ここまで蔓延したかと思い、とても気分が悪くなりました。

そう思って、理事長に電子メールを送り、ことの顛末を質問しました。理事長から回答がしばらくして届きましたが、概ね家内が聞き込んだ情報通りです。○階のクレームを付けた嫌煙者の男の氏名は「一居住者の方」と実名を伏せてありました。

私は、マンションの今の理事のMさんとは面識があり、大手企業の子会社の役員を長年務めた常識ある人物だと知っているので、M理事に偶然会った時に聞きました。

「当マンション内の極端なたばこ嫌いの一居住者の個人的な意見を、掃除人を問答無用で辞めさせるのは行き過ぎではありませんか?」
M理事 「確かにおっしゃる通りです。ただ理事会はこの問題に関与していません。あの○○さん(ここで、初めて実名を明らかにしました)が管理会社に直接電話して掃除人の解雇を強く要求したそうです。国連の何とかいう条約がどうなっている、WHOがどうだ、法律や厚生労働省がどうのこうのということを1時間も管理会社の担当者にまくし立てたそうで、管理会社もほとほと困ってしまったと聞きました」
「あの○○さんが理事会を差し置いて、個人的なご意見を、管理組合全体の総意のごとく管理会社に言い立てるのは越権行為ではありませんか? まして立場の弱い掃除人を攻撃して、裏庭でたばこを吸ったから解雇を求めるなんて異常です。○○氏が、そんなにたばこが嫌いなら、マンションの敷地内で吸うのは控えて欲しいと理事会を通じて掃除人さんに伝えれば良いだけの話でしょう。私は、マンション敷地内でたばこを吸ってはいけないなどの規則も何も無いのに、たばこ嫌いの人が勝手にそういうことを掃除人に要求すること自体が不適切と思いますが、解雇要求よりはまだしもまともです。理事会は○○氏の過激な行動をたしなめるのが筋ではありませんか?」
M理事 「私もそう思います。ですが、今の理事長は事なかれ主義の方ですので、○○さんと対立したくないようです。何度も言いますが、理事会として掃除人さんの交代を管理会社に求めた事実はありません。一居住者の強い要求に辟易した管理会社が自主的な判断で掃除人を交代させたということですので、理事会としてはそれ以上関知したくないのです」
「掃除人のおじさんは、別のマンションに担当が代わったということなのでしょうか?」
M理事 「それは知りません」
「しかし、こんな筋道が通らないことを理事会が認めるべきではないと思います」
M理事 「そうはおっしゃいますが、○○氏はご存知のような人です。評判はお聞きでしょう。理事会としてもいちいち相手にしたくないのです。理事会のメンバーも皆、忙しい中で輪番だから理事を引き受けている方ばかりですから、ああいう人とたばこをめぐって揉め事になりたくないのです」
こんな内容のやりとりでした。 私も日々の仕事が忙しくて、挨拶もできない異様な人と些細な問題で事を構える気にはなれません。

世間を啓蒙しているつもりのご立派な禁煙運動をやっている人が、まさか○○氏のような非常識な人ばかりとは思えません。おそらく○○氏のような人柄や事例は、極めて特異なケースであり、「だから嫌煙者は……」と決め付けてはならないと思います。
ただ、たばこを嫌う余り、普通の善良な喫煙者までをも無差別に人格否定し、迫害するのは、どう考えても行き過ぎでしょう。
世の嫌煙者の皆さんに自制と節度を強く求めたく考え、拙い筆を執りました。

2010/02/01