禁煙ファシズムにもの申す

禁煙ファシズムにもの申す

雲造院杢杢愛煙信士のつぶやき5
雲造院杢杢愛煙信士

某年某日

お偉い喫煙指導員サマ

知り合いの葬式に行った。
市内中心部のお寺だったので、車を近くの駐車場に置いて、商店街をパイプを銜えて歩いて行った。歩行喫煙禁止地区なので、たばこには火を点けてはいなかった。

ところが2人組の市の喫煙指導員サマに、いきなり道を塞がれ、通せん坊をされて因縁をつけられた。
「紛らわしいのでパイプを銜えて歩くのはご遠慮下さい」とのこと。表面上は鄭重ながらも横柄な口調だった。

余計なお世話とはこのことだ。
紛らわしいとかいうのは喫煙指導員サマの勝手。私は少しも紛らわしくない。
「遠慮せよ」とは無礼な言い草。私は遠慮するつもりは毛頭ないが、先を急ぐので、こういうお偉い方々は相手にしない。

「はい、承知しました」とおとなしく一礼して、ふと思いついて、パイプの代わりに電子たばこを銜えてみた。
すると見咎めた喫煙指導員サマが追いすがってきて「それも紛らわしいので駄目。吸うと、過料しますよ」とおっしゃる。

喫煙指導員サマのお一人が、舌打ちをしながら「ええ年をしとって、おしゃぶりがいるなんて……。たばこ吸いって奴らは……」と吐き捨てるような口ぶり。このお偉い喫煙指導員サマは喫煙者がトコトンお嫌いのようだ。喫煙者をゴキブリか何かの虫けらみたいに思っておられるのだろうな。

温厚で滅多に腹を立てない私だが、さすがに少しカチンと来た。時間があれば、善良な市民に対する非礼な言動に抗議するのだが、こうしたとてつもなくお偉い方々と路上で言い争うのも大人げないし、葬儀に間に合わなくなる。

そこで「お偉い喫煙指導員サマ。大変申し訳ございません。お願いですから。哀れなたばこ吸いの私めをお許し下さい。お偉い喫煙指導員サマに叱られると、哀れな私めは怖くてブルブル震えてしまいます」と言って鄭重に頭を下げて、パイプも電子たばこもおとなしくポケットに入れ先を急ぐことにした。

二人の喫煙指導員サマは、私が低姿勢で詫びているのに、凄まじい形相で睨み付けて「テメェ、ふざけんなよ。俺たちをなめとんのか」と恫喝口調でおっしゃった。

「おーコワ!」
別にふざけてなんかいないけどなあ。

さてと、葬式には間に合った。そこで親しいお坊さんに久々に出合った。彼にお坊さん仲間の4人を紹介されて、ちょっとしたイタズラを思いついた。ふざけていないのにふざけていると喫煙指導員サマに絡まれたからだ。

その計5人のお坊さん達に、先ほどの経緯を説明。「お偉い喫煙指導員サマを少しからかいたいので、協力して欲しい。歩行喫煙禁止の過料は私が払うから」と頼んだら、皆さん面白がって協力してくれた。このお坊さん方はたばこを吸われないが、やはりこの街の喫煙指導員サマにはどことなく嫌な印象を受けるそうだ。

先ずは、小道具の調達。近くの百円ショップで真っ黒なサングラス、ドラッグストアーで、ちょっと値が張るが、葉巻そっくりの電子たばこを買い、お坊さん達に渡した。

素顔ではやさしい目をしたお坊さま達が、坊主頭に黒メガネを掛け、黒服でネクタイを外すと、なにやら「そのスジのヒト」らしき凄い迫力となってビックリ。禿頭の私もサングラスをかけた。6人揃うとなかなかの迫力かもしれない。

喫煙指導員サマをからかうシナリオは、先ず私が彼らを探して、追い越しながら、目の前でパイプに火を点ける。すると喫煙指導員サマは激怒なさり、「オイ、コラ!そこのたばこ吸い! 許さんぞ! 過料払え」と厳しく過料をお取り立てなさるのは必定。

そこで後ろから、すかさず「なんか御用ですか」と、お坊様がたが声をかけるというもの。お坊様方には、葉巻風の電子たばこを全員がこれ見よがしに吸いながら、声をかけて頂く。

本職のお坊さん達は、読経で鍛えあげた良く通る声をされている。腹にズシリと響く野太い声を掛けられたら、お偉い喫煙指導員サマも腰を抜かすだろう。

そこで私が6人分計1万2000円を「過料欲しいんですよね? 6人分で1万2000円。これで文句ありませんよね」と目の前に投げ捨てて、「オイ、野郎共、行くぞ」と5人のお坊さん達を引き連れて、喫煙自由の喫茶店へ行こうという他愛の無いプランだ。

商店街へ戻ると、さきほどのお偉い喫煙指導員サマお二人がいたいた。不心得者の喫煙者はいないかと、鵜の目鷹の目で見張っておられる。職務を通り越して喫煙者への憎しみが感じ取れる熱心さだ。

さて、2人のお偉い喫煙指導員サマが30メートルほど先からじっとこちらを見ている前で、私はパイプたばこにライターでおもむろに火を点けた。お坊様方も皆、電子たばこを銜えてもうもうと煙を出しておられる。

私は財布から1万2000円を取り出して、彼らの前でお札を振って見せて、声をかけた。「おーい。過料だよ」

ところが、彼らは目をそらし、こちらを決して見ようとしない。構わず近づくと、目の前でサッと二人とも横道へ入ってしまった。声をかけたが返事は無い。姿を見失った。

面白くない!!!
せっかく用意した過料を払えないじゃないか!!!
私は過料を払いたいんだ!!!

パイプを盛大に吸いながら商店街をしばらく練り歩くと、今度は別の喫煙指導員サマがやはり二人組でいらっしゃった。なぜか用心棒として後ろに制服の警察官が2名控えている。

警察官の仕事には、成人の喫煙者を取り締まる業務は絶対に無いはずだが……。
どういう理由でこの二人の警官が喫煙指導員サマの用心棒をしているのか、名前を聴いておいて後で、親しい警察署長に事情を聴くことにしようと思った。

お坊様を引き連れて喫煙指導員サマと警察官の方にずんずん歩いて行った。
パイプからはモウモウと盛大に煙が出ている。

さあ、これで首尾よく過料を払えるぞ。倒錯した喜びが沸々と体内から湧いてきた。

ところが喫煙指導員サマお二人と警察官2名は、突然180度回れ右して我々からどんどん離れて行ってしまった。これは職務放棄ということじゃないのかな?

何だか面白くない。

坊主頭でサングラスと黒服の我々6名。そんなに迫力があるのかな?

馬鹿げたイタズラも大人気ないからなじみの喫茶店に着いたところでおしまい。

過料として喫煙指導員サマに渡すつもりだった1万2000円は、喫茶店内に置かれた東日本大震災の被災者のための募金箱にそのまま入れたことを私の名誉のために申し添えておく。


某月某日

「今日も元気だ、たばこがうまい」

昔の有名なキャッチフレーズだが、本当に良い言葉だ。
今まで内緒にしていたが、実は4年前にあわや「あの人はいい人だった」と言われかけた。

仕事中に突然倒れ、心臓が止まって意識が無くなった。救急車で病院に運ばれる際には、自分の肉体を斜め上から眺めるという幽体離脱まで経験した。
あちこち調べてもらったが原因不明のままだ。

退院後3ヶ月ほどは、たばこが吸えなかった。
いや、欲しいと思わなかった。
そしている内に、香に敏感になっていった。

席の後ろを通った私の会社の女性社員の服からたばこの香がして、思わず「おい、おまえさん、たばこを吸うのかい?」と声をかけてしまった。
「え〜、食後の一服をして消臭剤を振りかけてきたのに……。内緒ですよ」と釘を刺された。

わが社の小売店ではお客さんの香水に気分が悪くなったり、電車の終電でよっぱらいのアルコール臭さに参ったりした。

一番参ったのは、今まで気が付かなかった自分の服や部屋、車のにおいだった。
嫌煙の方々が目の敵の様にするのは、これなのかと思った。

そうしている内に、いつのまにか体も元に戻ったのか、たばこも吸える様になった。
そうすると、周りのにおいもちっとも気にならなくなった。

ひょっとすると、嫌煙、禁煙の皆様方は、どこか身体が悪いのじゃありませんか?

今の私は毎日美味しくたばこを吸っていますよ。


2011.12.27