パイプの愉しみ方
ブライアと優雅に遊ぶ 〜徳富博之の即興的パイプ制作
PIPES AND TOBACCO誌 (2006年夏号pp.20〜24)より
ホーンにみる楽しい即興性
徳富の作品は時として、そのデザインに到達するまでのルーツを知らなければ、十分に理解するのは困難かも知れれない。ジャズの例から類推しても、トランペット・ソロを最後の2・3小節聴いただけでは、最初からその即興演奏を聴いていなければ、あまり意味をなさないのであろう。
次に掲げる一連のパイプは徳富がいかにシェープで遊ぶかを示している。2003年の春には、彼は微妙に非対称なデルタ・ホーンをわずかに捻ったボディで制作している[写真左]。その後、彼はフォルムを異なる方向へ押したり突いたりしている。最初に彼は、テールをカールさせフロントをしなやかに変えた[左より2番目]。そして、頭頂部を丸くし山羊ヒゲを付け加えた[センター]。次いで、デルタの三角フェースを復活させたが、山羊ヒゲを残したまま輪郭を柔らかく形作った[右より2番目]。この一連の進化は2004年の12月に最高潮に達し、波うつラインと非対称なフォルムがブライアをクレイ(粘土)のように柔らかくみせる、驚くほど柔軟なホーンが出来上がったのである[右]。
上のセンターに掲げてあるホーン・パイプを一見して、そのマユの様な突起と山羊ヒゲで私はかなり困惑させられたものである。徳富は一体何を考えているのか、眠れる獅子それとも山?そこで、私はTeddy Knudsenの有名な上向きのホーンでプラトーの峯が底部に配されたデザインが頭に浮かんだ。
Teddyの典型的なプラトーを下にしたホーン(Eagle Grade 30)
私は徳富のパイプをTeddyの作品と並べてみた。すると構成が突然ハッキリと見えてきた。徳富のパイプは、ある意味では、Teddyのテーマをベースにした愉快な即興とみることができよう。
その後のホーンは、特に2005年に作られたものは、マンタと名付けられた全く新しいシェープへ発展する。これは彼がしばしば、意識的あるいは無意識に、Teddyの良く知られたモチーフで徳富流の遊びかたをしているのである。次に掲げるのは、Teddyのプラトーの峯を気まぐれに誇張して伸ばすことで徳富の初期の山羊ヒゲはタングになったのである。
柔軟なホーンへ導いたその優雅な遊びが、恐らく“Teddy的タッチ”と思われる要素を幾分含んでいることを徳富が意識していたかどうかは分からないが、何かしら創造的要素を彼自身が引きだし、それを完全に作り変え自分のものにしているのは明らかである。柔軟なホーンは元の試作段階からは外観的にも内面的にも姿が変ったのである。起伏のある柔軟な表面(なめらかなトップと底部のラフ)は面を移動することで変化が感じられ、パイプの回りを指で上下に撫で回したくなるものである。作品のラインやカーブは、われわれの目をあちらこちらへ向けさせ、いつまでも視覚のエネルギーをついやし続け、驚きが続くのである。つかの間の休息は、さざ波のようなグレインに注意を向けた時のみで、すぐにクレイの柔らかな輪郭をもつパイプの表面にあふれ出した水の流れのように視線が下へ流れるのである。
徳富とTeddyの作品を並べてみると、二つの同質の創造力を前にしている感覚に捕らわれるのである。もちろん異なる美学的伝統によってそれぞれ違った言語を語っているのだが、二人のブライアの即興性には類似のアイデアと衝動がみられる。
格付けの変更と、ちょっとした傷に徳富が小さなアイボリー片を埋めたことで、この“柔軟なホーン”は上級グレードとしては扱われなかったが、私の目には“snail”か“Hiro”クラスである。