パイプの愉しみ方

パイプの愉しみ方

日本の論点・「喫煙可」のあいまいさ

タバコは紙タバコだけではない。「喫煙可」では不十分。「紙たばこは可。パイプ、葉巻は禁止」とはっきり書くべし

仕事柄、月に1、2度地方講演にお声がかかる。東京と違って、地方の禁煙、分煙はまだまだゆるい。
小生も、気分転換に、地方来講演には必ずパイプを持参する。

よくあるケースはホテルの一室を講師控え室に当てて、1、2時間待たされることだ。まず禁煙といわれることはない。

たっぷり冷たい水が入ったジャーと灰皿、マッチも置いてあるから、まるで「吸え」といわんばかりである。こういうときこそ、落着いて葉を詰めて作業を始める。

先日、長崎のホテルの部屋で火をつけたら、いきなり警報機が鳴り始めた。それでも気にせず吸っていたが、従業員が出火かと心配して飛んできた。

「タバコは吸えますよね?パイプだとまずいのですかね?」と聞くと、「いいえ、ただ、火災報知器の真下だったので、紙タバコよりパイプの煙の方が強烈だったので、反応したんでしょう」といって、そのまま吸うことができた。

なるほど。煙の匂いはパイプの方が強烈なのかしらん。

ここ数ヶ月、地方のホテルで片っ端から吸って試してみたが、いまだに火災報知器が鳴ったのは、長崎だけであるし、喫煙可のホテルの喫茶店で苦情を言われたことはない。

不可解なのは、東京の喫茶店や酒場で、灰皿が置いてあるのに、パイプを取り出すと、「ご遠慮ください」といわれることを経験したからだ。

青山にある某喫茶店(名前を忘れてしまった)、ここはすくなくとも70年代、私が大学生時代からある老舗だ。灰皿が置いてあるからタバコが吸える。いまどきのような1杯200円もしないような安いコーヒー店でもなく、ジャズも流れている、それ風の店であるから、安心してパイプに火を点けた。

と、20代とおぼしき店員が「すみませんが、パイプは匂いがきついので、ご遠慮ください」といわれた。「匂いはきついが、いい香りではないか。紙タバコの臭いなど、とてもガマンできんぞ」と言いたくなったが、元来おとなしい性格だから、黙って火をつけるのを止め、コーヒーだけ飲んで退散した。

どうやら東京ではパイプや葉巻については禁煙は厳格に守られているらしい。

それでも、この喫茶店はパイプを取り出してすぐ言われたから、まだガマンもできた。

許しがたいのは、過去数回通ってパイプを吸っても何も言われなかったにもかかわらず、ある日、気分よくアルコールを流し込みながら、プカプカやっていたら、突然「パイプはご遠慮ください」とやられたことだ。

れっきとしたバーである。多くの客が紙たばこを大量に吸っているのはお咎めなしだ。

「酒にタバコはつきもの」というバーらしい客ばかりで、雰囲気も悪くない。「携帯電話やパソコンの使用はご遠慮ください」と手書きの注意も素晴らしい。「そうだ、そうだ、バーで携帯なんぞで話されたら、気分ぶち壊しだ」。小生もじつに気に入っていた店だった。

それは東京駅八重洲口にある「ブリック」というバーである。

これには実際、ムッときた。温厚な小生がムッとくるのだから、気性の激しい平野さんや外川さんがいたら、さぞかし大変だっただろう。

当然、その場合は「紙たばこ喫煙可、パイプ、葉巻不可」と明示すべきだろう。でなければ、不親切というものだ。

このまま、吸わずに帰れるものか。すぐブリックを出ると、近所に大衆酒場「庄や」が目に入った。

しっかり灰皿が置いてある。パイプを吸っていいか確かめてから入る。元気のいいお兄さんは注文を取りに来たあと、私がプカプカするのを何も気にも留めずにいてくれた。

この解放感はブリックの反動もあり、なかなかのものだった。あまり飲めない私も焼酎をロックで数杯あおり、店を出た時はニコチンとアルコールで酩酊気分であった。いやあ「庄や」は素晴らしい。

喫煙可なら、こうでなくちゃ筋が通らない。

千葉科学大薬学部教授 小枝義人