パイプの愉しみ方

パイプの愉しみ方

八角パイプの勧め

奥田 権八

親指と人差指で輪を作ると、その内側の形状が八角形に見えないだろうか。してみれば、掌中に包むパイプボウルの形状は八角が相応しい。四国遍路の金剛杖も八角断面のものが多く見られ、握るだけで掌に大師の仏恩が感ぜられるという。しかし入手しようとすると、スクエアシェイプはあっても八角形のパイプは少ないようである。そこで幾つか試作してみた。実際に喫煙してみると、タバコの火の温もりが指の関節にダイレクトに伝わってきて、至極具合がよろしい。

歴史上八角で思い浮かぶのは、法隆寺の夢殿、そして安土城天守閣第五層である。いずれもその主が焼討ちに遭って非業の死を遂げていると親切に注意してくれる人があるが、火に縁があるのは喫煙具としては至極結構であると前向きに捉えたい。

この上は他の喫煙具も、と某タンパー作家に八角形のタンパーは作らないのかと尋ねたところ、ボウル内面も八角形なら作っても良いとの答が返ってきた。八角穴を穿つ工作法を考案すればいいのだが、滑らかなボウル底を削り出すのが難問である。更にステム孔、ダボも八角断面にするのは非常な困難が予想される。彼のエットーレ・ブガッティも四角断面のエンジン吸排気系を製作しようとして、角断面曲り穴の加工法に悩んだと伝え聞く。

幸い材料が木材なので、八角形好きな蜂(?)の遺伝子を組み込んだシロアリを飼い慣らして掘らせる等の方法が考えられる。内側の角に滞留した気体が、中心部と内壁の流速の差を和らげて安定した喫煙性能が実現する可能性も無しとしない。道具ばかりでなく、喫煙者自身も顔面筋を鍛えて唇の形を自由自在に操り、八角形のタバコの輪を吹き上げれば八角パイプの道を究めたといえよう。