パイプの愉しみ方
力より熱が大事と思いたい
参加が叶わなかった函館パイプスモーキング大会の情報を取るためフェースブックを閲覧していると、ある参加者が道内の珍酒圭肴を食べ尽くしそうな勢いで、キーボードが涎の所為で不調になってしまった。あろうことか当日のコンテストでは早々と退散したのは自業自得である。その言い訳に、火の大きさを米粒大に抑えたもののタンパーで押しすぎて鎮火に至った云々と弁じている事に異を唱えたい。
タンパーでパイプの中のタバコを押すのは、タバコの密度を高めて火の伝播を助けるのが第一義だが、燃焼の熱を奪う作用も重要である。タンピングによって微小な火勢でも燃え続ける充填度を達成する一方で、火勢が衰えないように填圧する圧力および時間を加減するのがロングスモーキングの要諦である。苟も米粒大火点の技術を標榜する以上、押すべきか押さざるべきかとボウルの上で脂汗を流して逡巡し、結局消えて仕舞うのが筆者の常態である。
此処で気になるのが今回の競技用タンパーの材質である。これまでは開催地により、長さ100mm、直径15mm、材料は木製であることというルールの範囲内で、ホウ、ミズナラ、花梨、ヒバ等、種々の材質のタンパーを経験した。野球のバットがアオダモ、昔のスキー板がヒッコリーというように、タンパーの材質も何らかの標準化が必要な時期に来ているのかもしれない。火勢をコントロールする観点から、タンパーの熱容量および填圧面の熱伝導率を大会使用タンパーに応じて判断する能力が、コンテストの勝敗を大きく左右するような気がするからである。更に厳密にいうならば、使用される木材の乾燥度、灰の着き易さに関連する端部の仕上げも大きなファクターであろう。
筆者のような記録よりは喫味の方が大事と言う落ちこぼれ競技スモーカーとしては、折角心地良くスモーキングをしているのに喫味が変わってしまうタンパーが最悪である。この観点からは、タバコの旨い香りの抽出過程をを左右する燃焼温度を変えないで填圧できることが肝要である。すなわち温度に影響を与えない材質が望ましい。そこでお勧めなのが、桐製および竹の節の部分を用いたタンパーである。
桐は金庫の内張りに用いられることで判るとおり燃えにくく熱を伝えない特質がある。竹は節の内側は空気であり、これまた熱影響が少ない理想的なタンパー素材である上に、その空間をモール入れにできる利点もある。筆者がこれらの理想の素材に巡り会うまでには、タンパー自身が燃えてしまうとの苦情が殺到したバルサ製等の苦難の歴史が在った。一方、燃焼温度を上げすぎて喫味が辛すぎる場合には、積極的に熱を奪って低温燃焼に導くため、熱伝導率の高いタンパー面の必要性も無視できない。最近、この目的で熱伝導率が最も高い物質の一つである銀を一方に装備したタンパーを開発した。パイプの喫味に集中し、状況に最適なタンパー面を選択するだけでスモーキングタイムなどは意識の外にある一時こそ、パイプスモーキングの法悦境なのである。