パイプの愉しみ方

パイプの愉しみ方

「50にして煙を知る」第32回 MOKABLE永田町4〜政界最新喫煙事情

千葉科学大薬学部教授  小枝義人

「たばこ増税反対全国集会」

10月19、20日の2日間、自民党本部ビルでは全国たばこ販売政治連盟が「たばこ増税反対全国集会」を開いていた。業界・団体は与党に傾斜するものだが、復興増税絡みで、またもやタバコ課税強化の動きに怒りを覚えたのだろう。

決議文を受け取った愛煙家、大島理森・自民党副総裁も「安易に取れるところから取るという姿勢に反対しなければいけない」と、同類スモーカー・野田佳彦首相に向けたジャブを繰り出したそうだ。

小池百合子・前総務会長が打ち出した禁煙方針の現況はどうか?

久々に党本部に入ってみる。9階にある議員サロンで知り合いと待ち合わせをした際、見渡すと、テーブルの上に灰皿はないが、「吸えるのですか?」と訊くと、「はい、どうぞ」と灰皿を出してくれた。

小池、河野太郎議員主催の集りなどは禁煙だが、ほかの集会では、そうでもないらしい。

「ここは自由です。吸いたい先生はたくさんいますから。会議室でもかわいいもので、灰皿を持ってきて、テーブルじゃなく、床においてそっと吸っている先生もいますよ。テーブルに置いて吸ってもだれも咎めませんよ、そんなこと」―さすが大人の政党ですな、自民党は。

会議室には、必要なら使えるように、壁際に灰皿はちゃんと積んであるそうだ。だいたい誰も吸わなくなったら、タバコ税は入らなくなる。議員たるもの、吸いたい人はどんどん吸って、喫煙で納税に協力するのもお国のためである。

麻生さんが葉巻愛好家という話題も秀逸だったが、野田さんのヘビー・スモーカーぶりも今どき貴重だ。筆が進む。いっそ、野田さんがうまそうにシガレットを吸う姿をぜひ見たいものだ。公開すれば、納税意識向上に資するであろう。

記者とのオフレコ懇談はタバコ吸いながらやっているそうだから、JTが広告出演を総理に申し込んだらどうか。実現しなくても、それだけで宣伝効果は充分ある。

チャーチルは言うに及ばず、日本でも三木武吉、吉田茂、河野一郎、岸信介、渡辺美智雄氏ら往年政治家の喫煙姿は様になっている。ただし、見識と貫禄は必要だが。


議員食堂

ついでに議事堂内にも久しぶりに足を運ぶ。2年前、政権交代直後に訪れた時は、まだ衆院本会議場の入り口一角のソファ脇にあったスタンド式灰皿はなくなっていた。「ありゃ、撤去されたか。では議員食堂はどうかな」。

「いらっしゃいませー」ずーっと昔からいるおばちゃんは健在だ。一瞬、こちらも現役時代にタイムスリップした気分だ。

以前はテーブルに置いてあった灰皿はなくなっている。「政権交代とともにここも禁煙か?」―コーヒーを注文しながら、ウェイターにそれとなく尋ねた。

「お吸いになりますか? 大丈夫です。灰皿持ってきますよ」よく見れば、ここも、厨房脇に灰皿が揃えてある。

「議員の先生方、いらっしゃると大体吸いますからね」―喫煙派は党派を問わずか、なかなか心強い言葉。

向こうの席に新聞記者が2人、連れ立って来た。食事、コーヒー、メモ整理、タバコに火をつける。なんせ記者クラブが禁煙だから、ここに来て吸うことになるようだ。

新人時代、初めて記者クラブに足を踏み入れた時、花札(当時でももう世間では珍しい部類に入った)、サイコロ(チンチロリン博打、これもそう)、マージャン卓、囲碁、将棋盤、紫煙、ソファに背広姿で寝そべる記者を見て、「羽織ゴロか、すごい世界」と感じ入ったものだ。

その頃、議事堂内・平河クラブ(自民党記者クラブ)にいたら、後に衆院議長となる田村元氏(当時、国対委員長だったと記憶するが)がフラリと現れ、ジャン卓に座り「お時間ある方、いますかな」と声を掛けると、たちまち各社の記者が卓を囲んで、一戦始まる。事が起きればすぐ止められる業界ルールがあったはず。

国対委員長室を覗いたら、奥田敬和氏が議員相手に真剣に将棋を指していた姿も思い出す。こうやって記者と政治家がコミュニケーションを図るのは日常茶飯事の風景だった。

そんなこんなを回想をしていたら、やがてどこかの議員センセイが、後援会の人間とおぼしき面々を連れてやって来た。

さっそくタバコに火をつける。「いやあ、本会議場脇のソファで吸っていたときはね、灰をこぼして赤絨毯を焦がしてはいけないと注意していましたから。ここだと安心です」―そういう心配りもあったのか。食堂に座って居るだけで結構、発見はある。


「モア」いよいよ聖地化

最後はどうしても衆院第二議員会館1階「モア」へ足は向く。

政界喫煙族の聖地と化している「モア」、1日、2、3回来て、コーヒーを注文するや、タバコを吸うとあわただしく立ち去る秘書氏、衆院に移っても店長の味が忘れられず、やってくる参院の昔馴染みの客ありで、いつもながら繁盛している。 「参院ではパスタがよく出たが、衆院はハンバーグ大好き人間が多いね。やはり常在戦場・肉食系衆院、任期6年・草食系参院というカラーの違いはある」「コーヒーの出前が参院は多かったが、衆院はさっぱりだね。来客が多い衆院はコーヒー・メーカーでないとコストがかかるのかねえ」―彼の話はメディアの伝えない政界の日常が垣間見えて興味深い。

さらに隅で鳴らしているオールディーズにもファンが多いことが判明した。最初、有線かと思った音楽も、彼がダビングした特製だった。「カセット貸してくれ、なんて言う秘書さんもいるね。ベンチャーズが好きだとさ。休日はタバコとカセットで好きな曲を聴いていれば、俺は幸せなんだよ」。

こちらも似たような生活だ。音楽はレコードかカセットをスピーカーでしか聴けない世代、それがわれわれだ。