パイプの愉しみ方
『50にして煙を知る』第6回 芸術品と見るか、吸う道具として 楽しむか
ご存知のとおり、私のパイプ歴は2年に満たない素人である。取り立ててパイプの歴史や道具についての知識もないが、日本パイプスモーカーズクラブに入れていただき感心したのは、とにかくタバコの味を愛する人、パイプそのものを集めるコレクター、その両方が好き、といった3種類の人々が交じり合って、一種独特の世界を形成していることだ。
好きっていうのは、本当に楽しいことなんだなあ、なんて、いまさら言うのもおかしいけど。
しいて言えば、私はパイプの形を眺めて楽しむほうから入り、おっかなびっくり吸うようになったタイプだと思う。
1年あまりの喫煙歴の中で、10本に満たないパイプを所有しているに過ぎないが、最近、実に吸いやすく、こればっかり使っているパイプと、「こんなコンパクトで、美しいパイプがあるのか」と思い、入手してから、毎日触って眺めているものがある。
私はパカパカ吹かしまくるタイプであるが、それにはダンヒルが素晴らしく空気の通りがよく、愛用している。
ところが、昨年11月、ロシアのサンクトぺテルスブルクで開催されたパイプワールドカップに参加した方が、お土産に買ってきていただいた大会用パイプ。 これが実に通りがいい。
タバコを詰めて火を点けるとジャンジャン吸えてしまう。大容量のものは、体格が大きくない私には苦手だが、これだけは抵抗なく使える。スカンスカンと空気が通り、まるで大風の中で焚き火をしているように吸え、あっという間に燃え尽きてしまう爽快感がある。
「うーむ、これはすごい」。イタリア製で、吸い口をボウルから簡単に抜き差し出来て掃除も簡単、しかも銀巻きが両方についている。「アーミーマウント」と言って、戦場で兵隊がポケットの中でパイプが折れないように工夫したもので、比較的珍しいのだそうだ。最近はこればっかりだ。
「それで吸うと、ロングスモーキングができなくなり、大会での記録が伸びなくなるよ」と平野さんが注意をしてくれたが、そんなことは知っちゃいない。どうせ、記録なんか私は気にもしてないもん。冬の寒さがパイプの煙の着火を加速させ、快感は増すばかりである。
一方、12月にひょんなことから手に入れたパイプは全長12センチにも満たないちっちゃなものだが、眺めていてうっとりする逸品だ。日本製だが、誰がいつ製作したかもわからない。なんといっても吸い口が象牙で、かなり使いこんであり、色に深みがある。しかも銀巻きがついている。「いまどき象牙のパイプは手に入らないからね」と平野さんが、自分も買いたそうだったが、厚き友情で私に譲ってくれたものだ。
ところが、吸ってみると穴が細くで、なかなかうまく吸えない。
「そりゃね、吸うもんじゃないんだ。手で触って磨いたりして楽しむパイプだね。でも吸うと銀巻きの部分が、やはり輝きを帯びてくるから、そろそろとたまに吸ってりゃいいんだ」と、山崎先生から的確なアドバイスをいただいた。
で、こっちは部屋でしょっちゅう触って磨いてたり、眺めたりしている。かわいくてしかたがないパイプだ。
学年末試験、入試、卒業試験、採点と、大学はこの時期は1年でいちばん忙しい。パイプとともに過ごすひとときは、そうしたストレスを和らげてくれる貴重な時間でもある。