パイプの愉しみ方
イネ目イネ科タケ亜科
植物は地中の種々の成分を成長過程で吸収し、その各部位を形成する。イネ科の植物では珪酸化合物を取り込んでガラス質の鱗片を籾殻の周囲に形成し、その種子を護っていると言われる。穂を垂れた稲田が夕日に映えるのは光学的にも理由があるのである。これらの植物由来のガラス状物質をプラント・オパールと称し、草木の灰が陶磁器の釉薬に成り得る理由でもある。タケ亜科に属する竹もその組織内に珪酸物質を多く蔵し、軽いながらも強靭な物性を有している。
植物としてのタバコは化学兵器としてのニコチンを持つ以上、プラント・オパール防御に頼る必要はない。ニコチンの毒を分解して食料とし得るのは数種のタバコガの幼虫のみである。しかもその葉の大半を蚕食される事態に達すると、タバコは件のガの天敵であるカメムシを呼び寄せる匂いを発して防御すると言われる。この危機状態のタバコの葉で調製した喫煙用リーフこそ、限りなく奥深い喫味が得られると想像される。
パイプの材質であるツツジ科ブライヤの根塊が如何ほどの珪酸を含むかは知らないが、使い込むに従い透明度を増すことはないのでそれほど顕著ではないのだろう。タバコの葉にも珪酸物質がさほど含まれないとすれば、ボウル内側に蓄積するカーボン層が硝子のように硬くなることも考えられない。してみればカーボンを削るパイプ用ナイフの刃も竹製で十分用に耐えるであろう。エレクトゥス、ジャワ等の原人化石では一緒に出土する鋭利な打製石器が、北京原人に限って随伴出土しないのも彼の地で豊富なタケの使用に起因するという学説もある位である。
一部の愛好家に理想のタンパー材と称揚されてきた竹がパイプ用のピッカー/ナイフとしても使用に耐えるとすれば、これを組み合わせるのは理の当然である。使うに連れて断面が煙やタール分によって飴色に遷移し、いわゆる煤竹に変化するのも味わい深い。他の材では汚れと見做される変色反応が、価値を高めるのも竹ならではである。
竹製のパイプコンパニオンの利点はその軽量、美麗だけではない。飛行機の搭乗にあたって、どれほど刃先が鋭利であっても没取されることはない。世界を股にかけるパイプスモーカーにとって救世主と言っても良い。ただし中国奥地でパンダに襲われた場合だけは、竹のカーボンナイフは何の抑止力にもならない。それどころか火に油を注ぐ結果になると思われるので此処に申し沿えておく。