パイプの愉しみ方
書評「煙管・パイプ・手巻きたばこ」
手軽なシガレット(紙巻たばこ)を卒業して、そろそろ正真正銘の愛煙家になりたいという志を持つ方々に、格好の手引書である。
40年ほどパイプたばこ一筋で過ごしてきた書評子は、シガレット愛好家については何だか言うに言われぬもどかしい気持ちを長く抱いてきた。同じ喫煙者としての連帯感を感じる一方で、「手軽さを優先しているナ」という印象がどうしても否めなかった。
シガレットにはシガレットの美味しさがあることは重々承知しているつもりだ。たばこ会社の長年の努力と創意工夫で銘柄ごとに味の違いは鮮明だ。まあ、それなりに美味いのは確かだろう。
だけどパイプや煙管、葉巻といった、たばこのヘビーユーザーにとっては、やはりどこか物足りないのである。
同じ嗜好品のコーヒーを例に取るとわかりやすい。シガレットはコーヒー会社が美味しくブレンドしたパック入りのコーヒー、あるいはインスタントコーヒーのようなものだろう。確かにコーヒーの味はそれなりに楽しめる。簡単で良い。
だけど、一流のコーヒー店の美味いコーヒーと比べれば、やはり雲泥の差があるのは言うまでもない。本当のコーヒー好きは、自分で豆を炒って、挽いて、サイフォンかドリップで漉し出す。至福のひとときを味わうためには、そのくらいの手間は惜しまない。
たばこも同じだろう。本当のたばこの味を味わうには、出来合いのシガレットではどうしても物足りない感じが否めないのだ。
となると、煙管、パイプ、葉巻、あるいは自分独自のブランドを楽しむ手巻きたばこということになるだろう。
極論に走ったかもしれない。もし不快感を抱かれたシガレット愛好家がおられたら、先回りしてお詫びしておく。
でもシガレット、それもニコチンとタールを軽減したフィルターつきで吸っておられる方々は、たばこの本当の味に一度、挑戦なさってみてはどうだろうか。
そのための手ほどきをしてくれるのがズバリ、この本である。本物の味を知りたいと思う初心者に丁寧に吸い方を伝授している。
パイプやたばこにあまり関係のない方が編集したようで、編集の角度が新鮮だ。写真や図が豊富でカラフルだから、見ているだけで楽しい。たばこの世界の現役有名人が数多く登場し、それぞれのたばこ哲学(?)が一癖も二癖もあって面白い。エピソードやサイドストーリーも満載だ。
長年、シガレット一筋でやってきた方々も、たばこの奥深い世界を知れば、認識が変わってくるだろうし、昨今の異様な嫌煙運動の愚劣さを憫笑する、いっぱしの“たばこ通”になれるだろう。
一度、挑戦してみて、色々と面倒そうだからやっぱり自分は手軽なシガレットが好みだという方は、あっさりシガレットに戻ればよい。
だが、本物を味わい、人生を豊かなものにするには、手間や面倒くささが必要なのであり、それこそが楽しいものではないかというのがパイプ党の書評子の信念である。
(スタジオ・タック・クリエイティブ刊 2500円プラス税)