パイプの愉しみ方
―紫煙と文士たち― 林忠彦写真展 たばこと塩の博物館
伊達 国重
東京・青山に行く用事があったので、帰途、渋谷のたばこと塩の博物館で開催中の林忠彦写真展 〜紫煙と文士たち〜を覗いてみた。
林忠彦は、昭和の時代を代表する写真家の一人で、今は死語となってしまったかつての「文士」たちの肖像写真をたくさん撮影した。その中から「たばこ」が写し込まれた写真約80点を展示したのが、この写真展だ。
銀座のバー「ルパン」のカウンター席で、酔ってとぐろを巻く、太宰治や織田作之助。あの時代に壮絶な生き方をした「文士」たちの姿を生き生きと活写している見事な写真展であり、実に素晴らしい企画だった。
我が国の戦後文学を彩ってきた様々な「文士」たち。彼らが脳髄から搾り出してきた作品の多くがたばことは切っても切れない関係にあることを改めて痛感した。
そういえば、石原慎太郎の言葉を借りるまでも無く、最近の文学作品はおよそつまらなくなったものだ。娯楽小説や探偵小説は別として、このところ現存の作家の文学作品を読んだ記憶がまるで無い。
酒もたばこも嗜まず、豪邸に住んで、ひたすら長生きのための健康法と蓄財に励むせせこましい優等生みたいな「現代作家」が産み出す「作品」とやらに、読者が心を揺さぶられ、感激するはずもないではないか。
そんなことをあれこれ思いながら、林忠彦自身がかつて書いた写真の注釈を足を止めてじっくり読んでいるうちに時間がどんどん経ってしまった。
私の青春時代の懐かしい映画「伊豆の踊り子」(昭和38年製作、吉永小百合、高橋英樹主演)の特別映写会まで観てしまい、小一時間ほど立ち寄るつもりが、午後一杯お邪魔してしまった。充実した一日だった。
展覧会は3月18日まで開催。
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