パイプの愉しみ方
流体装置
丹波作造
価格、ブランド、バランス、グレイン、果ては咥え心地と人それぞれだが、横から見たシルエットがパイプ選びの重要ポイントであるというスモーカーは少なくないだろう。残念ながら煙草が美味しいかどうかは入手後、後の祭りになることもしばしばである。
そしてシルエットと喫味に重要な役割を果たすのが、内外の差はあれ形状曲線のスムーズさである。航空機,船舶等の流体力学を利用した装置において形状は性能に直結する。その設計には、細長い木の薄板、バテン定規(英語ではスプライン)が用いられてきた。これを通るべき点(コントロールポイント)に錘で固定して全体の曲がりを調整し形状を決定する。ヨットの帆に組み込んでセイル形状を整える木の薄板もバテンと称するのは同根である。近年はコンピュータ上で形状を設計するが、スプライン曲線機能は必須で本質は余り変わっていないとも言える。
パイプのシェイプをスプライン曲線で再現したらどうなるだろう、というのは当然の帰結である。この時コントロールポイントは多いほど多様な形状が得られるが、少ないほど曲線が美しい、牽いては性能も優れていると考えられる。パイプにおいてはチップとボウル両端は必然として、アッパーラインとロワーライン中間に各2点が基本であろう。たった7つの点でどれほどのデザインが可能かと試みた。
驚愕である。いわゆるオーソドックスなデンマークデザインの多くが、7つののコントロールポイントで現出するではないか。パイプはまさに流体装置だったのである。
参考 エルシノアシリーズのクラシックシェイプ(G. Holbek)