パイプの愉しみ方

パイプの愉しみ方

危険な臭いがする喫煙者排斥運動

拓殖大学海外事情研究所准教授 丹羽 文生

世の中、何処も彼処も禁煙スペースばかりである。全席禁煙の居酒屋まで登場しているほどだ。愛煙家にとって随分と住み難い時代になった。

何を隠そう実は筆者も喫煙者である。だが、教育者という職業柄、いい子ぶって公衆の面前でプカプカ吸うことはない。祖父は近所では有名なヘビースモーカーで、筆者も煙の中で育ったようなもの。祖父が亡くなった時には棺桶にショートピース10箱を入れ、墓参りでは、線香の代わりにショートピースを供えることにしている。

それにしても、この“嫌煙キャンペーン”は、いかがなものか。異端抹殺の魔女狩り思考に似通った狂信を感じているのは筆者だけではないはずだ。喫煙者を、まるで犯罪者のように扱い、排斥しようとしている。旗振り役は「歩く禁煙マーク」の異名を持つ小宮山洋子厚生労働相である。

野田佳彦内閣発足時、筆者は、このコーナーにも度々登場する千葉科学大学薬学部の小枝義人教授と台湾にいた。台湾は2009年1月に煙害防止新法が施行されて以降、ホテルもレストランも室内は全面禁煙となっている。

嫌な予感は的中した。「組閣情報 小宮山洋子氏 厚生労働相に内定」とのメール。よりによって禁煙の国・台湾で、こんな「悪報」を耳にするとは・・・。1日2箱を吸うというヘビースモーカーの野田首相らしからぬ人事。今でも彼女の顔をテレビで見ると、文化大革命の時、反動分子、悪徳分子を公衆の面前に引っ張り出し、吊るし上げた毛沢東の忠実な兵隊「紅衛兵」を思い浮かべる。

ナチス・ドイツは、かつて、世界最大規模の反たばこ運動を展開した。バスや電車内の禁煙、たばこ税増税、レストランや喫茶店での喫煙規制、軍隊へのたばこ配給制限・・・。アドルフ・ヒトラーは嫌煙家で知られている。たばこが体に悪いという通説を世界で初めて証明したのもナチス・ドイツの医学である。

もちろん、喫煙者のマナーにも攻められる点はあるが、「人権尊重」や「健康増進」を大義名分に掲げた喫煙者排斥運動は、危険な臭いがする。一歩誤れば他者の存在を認めないファンダメンタリズムに陥ってしまうような気がしてならない。