パイプの愉しみ方

パイプの愉しみ方

不老装置

丹波作造

パイプスモーカーは年を取らない。

紫煙に世の憂さを忘れていると、歳を重ねるのも忘れるものらしい。煙草をタンパーで填圧する微妙な指先のコントロールも老化防止に有効である。タンパー上部も、可能な限り持ちにくくて制御に神経を使う形状が加齢防止に有効と思われる。これまで、手に馴染む、押しやすいなどと易きに流れていたスモーカーは、根性を入れ替える必要がある。精妙なハンドリングによりやっと煙草に辿り着く。その時には不幸にも火は消えている。再着火、また使いにくいタンパーで煙草上面を目指す。あっ、吸うのを忘れていた。このような困難を乗り越え、蝶のように吸い蜂のように押す境地に至ったら更に困難なタンパーに挑戦する。スモーカーとタンパー作者の尽きることのないコラボレーションが続いてゆくのである。

対手の楽を図るばかりが親切ではない。困難を乗り越える機会をさり気なく提供してこそ真の協力者であるのは真実だが、理解を得るのは容易ではない。柄が折れやすい、曲がっていて押面の位置が分かりにくい、燃えやすいのでタンピングに神経を使う、等々長生きするタンパーのアイディアは尽きることがない。問題は使用者を見つけるのが容易でないことである。昔日は、割り箸の背、鉛筆、果ては自分の指先と側にあるものはなんでもタンパーにする豪傑がいたが、皆既に逝ってしまった!? 何はともあれ困難に果敢に向かっていく気概をもつスモーカーが一人でも多くなることを願う。


容易に燃えるバルサ材のタンパー

スモーキングコンテストはタイムが長い者が勝者である。同タイムの場合には年長者が上位になるのがルールである。紳士のスポーツであるから、年齢は申告データが用いられる。上位を得るために年齢を多く申告するのはアンフェアだが、少なめの申告はある意味潔い行為で目くじらをたてることもない。5月に開催される関東大会の準備でエントリーデータをテェックする機会があったが、この数年というもの年齢が不変の参加者が散見される。どのようなタンパーを常用しているのか興味が尽きない。しかし大会ではタンパーは公認形状のものが支給されるので詮もない。

更に驚愕の事実がある。クラブ入会時に厳重な審査を経ているので生まれて20年以上経過しているのは確かなのだが、申告年齢0歳の競技者が複数を数える。会場に乳母車、授乳所等を手配するべきか迷うところである。