ペースメーカー、高級機械式時計、その他精密裝置を装用する方は近付かないでください。鉄鋼製品を所持している方も、飛び出ないよう御注意ください。

リニアモーターカーの試運転ではない、パイプクラブ例会でのアナウンスである。僕の磁力は１万テスラ、鉄腕アトムの積りかという罵声の中、徐に煙草を押す。磁気を帯びて活性化したリッチな酸素が、安定した燃焼を齎す。タール分が素早く燃えるため、ヘヴィなラタキアもオリヱント葉の軽快、ヴァージニア葉はケンタッキーの青空に吹く風のよう。喫煙後は上質なハバナ葉巻のような白い灰が、粉雪のようにボウルから溢れ落ちる。苦節十年一剣を磨す、これまでの試行錯誤の苦労が走馬灯のように頭を過る。タンパーの磁石部分を肩に当てれば、競技中の緊張による肩凝りも氷解してゆく。

数々の試作を経て注文した磁石ブロックに添付された文書には、強力磁石は危険物ですとの記述があった。子供の手の届くところに置かないこと、嚥下した場合は開腹手術の羽目となる。磁石同士に挟まれると危険なので、必ず二人以上で作業すること。此れに較べれば煙草の害などかわいいものである。危険からの開放感で煙草が益々美味しく感じられるではないか。しかし都合の良い事ばかりではない。ネオジム磁石の磁力は８０度以上の高温になると劣化するという。スモーカーに低温燃焼を要求するとはその親切に涙する他ない。要求にどうしても応えられない向きには、若干磁力は落ちるが３００度まで耐えるサマリウム・コバルト磁石という選択肢もある。

かかるタンパーの夜明けが、パイプクラブ連盟が齢４０を閲する本年に一致するのも何かの機縁、来る十月六日に浅草ビューホテルで開催される全日本パイプスモーキング選手権大会に向けて、技術の玉成を図る所存である。

［編集部注］　文中の記述はあくまで作者個人の感想および願望です。磁石の使用は公式競技では認められない可能性があります。