パイプの愉しみ方

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「50にして煙を知る」第39回「売れてます『晋ちゃんライター』」

千葉科学大薬学部教授  小枝義人

参院選が終った。自民党が大勝した。3年に1回巡ってくる夏の恒例行事であるが、今回は暮れの衆院総選挙、6月の東京都議会選と続いた政治決戦の締めくくり的な意味もあったが、まあ順当な結果であろう。

安倍晋三首相は、休む間もなくそのままASEAN諸国外遊に出かけたし、与党は秋からのアベノミクス「成長戦略」の具体化作業に、いまから汗を流さなければならない。
そんな中、一ヶ月ほど前か、久しぶりに国会議事堂に入ってみた。「政権交代後、空気も大きく変わっただろう」と思い、覗いてみたわけだ。

なじみの土産物屋さんで、腕時計の電池交換を頼みながら、聞いてみた。

「うーん。見学者が増えましたね。自民党の先生はちゃんと後援会を持っておられるから、地元からバスや新幹線で大勢見学に来るんですよ。で、皆さんが見学記念にお土産を買っていただけるんで、また売れ出しましたよね、定番の『歴代総理の似顔絵湯のみ』」

それに加えて、まとめ買いをしていくのが、150円のライター、通称「晋ちゃんライター」
禁煙のご時世なのに、なんでライターが売れるのかね?
「売れますよ。この店も禁煙ですから、中庭にある喫煙所でしかタバコは吸えませんが、安倍総理の似顔絵入りライターでこの値段なら、10個、20個まとめ買いできるしょう。地元に帰ったら、仲間のみなさんに『国会に行って来た。ハイお土産』って渡せますからね」。どうやら、使用するか否かは関係なさそうだが、記念品にはなるらしい。
「安倍さん?人気ありますよ、ほんとに。国会の中で、ご婦人や社会見学の小学生たちが総理を見つけると「キャー、安倍さーん」と手を振って声を掛けられていますからねえ」とは長く店で、国会を眺めている老婦人。
それでも、「なんたって人気抜群だったのは、小泉さんだね。あのころは、ストラップ買うため、うちにも見学者の行列ができたもん。あんなこと、小泉さん以外ないね」。
「退陣間近というときは、来た人がもう買えないからなあと、いろんなお土産をまとめて買っていく人が多かった」とは電池交換が終った店長さん。
おっ、よくみれば店のウインドウに小泉さんのフィギュアが置いてある。じっと見つめる私に、すかさず店長が、「これ、非売品ですからね」。

 

五輪真弓 「煙草のけむり」

参院選の最中、フィールドワークで、いくつかの選挙区を廻ってみたが、たまたま立ち寄った北関東の地方都市で中古レコード屋を見かけた。飛び込んだら、長く探していた名盤を探し当てた。ラッキー。

「冬ざれた街  五輪真弓 ライブ」―。もちろんアナログアルバム。真夏に冬ざれた街といわれても暑苦しいが、ラストナンバーはよく聴いた五輪の作詞作曲「煙草のけむり」だ。これが聴きたかった。

「初めて会った時も あなたは煙草をくわえ そして言った。“火をかしてください ぼくの暗い心に 火を灯してください あなたの赤いマッチで”」

読んでも名文だが、是非サウンドで聴いてもらいたい。夏は避けて、秋の声を聞くまでに、若者はダウンロードでもして、中年以上はCDかアナログで探してもらいたい。

参院選での「晋ちゃんライター」と五輪のライブアルバムの邂逅。

ライブの録音は73年暮れ、渋谷「ジャンジャン」、といってももう若い人にはわからないだろうなあ。

ちょうど40年前か、田中内閣でオイルショックの最中だ。総理は大学1年生。この曲はご存知かと思う。

アベノミクスが日本経済にほんとうの火を灯せるか。秋以降は正念場になろう。