パイプの愉しみ方

パイプの愉しみ方

読煙子に寄す― 青羽芳裕編「パイプ随筆」を読んで ―

練達のスモーカーにして煙草道の蘊奥を極めたと目される編者が、古今東西のパイプ知識を詰め込んだ一冊を編んだ。パイプの煙も漫然と上がるに任せるのでは無く、読み込む程に味わいが深まるという内田魯庵の意を汲んでこの文の表題とした。

編者はかの「パイプ大全 第3版」の編集主幹を務めたことでも知られるが、その道のハードウェア・マニュアルに続いて、人生におけるアプリケーション・マニュアルを世に出すという難行に単身立ち向かったことは賞賛に値する。本書はいずれも著名なパイプスモーカーの著作を索いて、一人のパイプスモーカーの成り立ちを辿る構成を採る。明治時代に遡る日本へのパイプの伝来に始まり、登山の黎明期のパイプ、戦中戦後のスモーキングの苦難、そしてパイプシェイプのルネッサンス期へと続く内容は、読む者にパイプを擱く暇を与えない。斯くの如き達人が生息するパイプクラブとは如何なる魔窟か、編者は登仙も間近の古老かと肌に粟を主ずる向きも在りそうだが、実は紅顔の美少年…という程ではないが属するクラブでは若手の方に分類される一応ジェントルマンである。かといって単に博引旁証、古来の記述を寄せ集めた訳ではなく、選篇が編者の人生と絡み合って行く様子が簡潔に解説されており、読者はパイプと人生との縁を追体験することが出来る。

パイプスモーカーであるならば、本棚にこの本を欠いては、パイプに燃料であるタバコを詰めて点火しないようなものである。編者には今後、「タンパー随筆」、「灰皿随筆」等の周辺インターフェース・マニュアルの充実を期待してパイプを擱く事とする。


―12月3日“はやぶさ2”打上げ成功の日に―
丹波作造