パイプの愉しみ方

パイプの愉しみ方

「スーパー百歳」が実践する健康法

日本パイプクラブ連盟 事務局

日本パイプスモーカーズクラブ(JPSC)の最年長会員の関口一郎さん(102歳)が、月刊誌文藝春秋の平成28年6月号「特集 百歳まで生きる」で紹介されました。 (株)文藝春秋のご厚意により、記事の一部を転載致します。
筆者は、JPSCの会員でライターの伊田欣司氏です。


人生百年の時代が到来した――そう思わせるほど健康長寿で元気な「百寿者」が増えている。

なかでも関心を集めるのは仕事、スポーツ、研究などの現場で活躍する「現役」百寿者だろう。書店では彼らの生活を紹介した「長寿本」がベストセラー入りすることも珍しくない。

なぜ彼らは元気に活躍しつづけることができるのか。全国の百寿者五人を訪ね、その理由を探った。

 

「病気らしい病気はしたことがなくて、風邪もほとんどひきません。軍隊にいた当時は、一度も軍医に診てもらわなかったこと、下の人を一度も殴らなかったことが自慢で。耳もよく聞こえます。悪いところは自分の歯が一本もないこと、脚が弱ったことです」

関口一郎さんは今年五月で百二歳になるとは思えないほど力強い声で明快に話す。銀座八丁目の「カフェ・ド・ランブル」のマスターといえば珈琲研究家としてコーヒー好きの間でよく知られる存在だ。

脚を悪くしてからは、甥たちにお店の切り盛りを任せているが、週に四、五日は出勤して、主にコーヒー豆の焙煎を手がけている。焙煎室に入る瞬間、表情が厳しくなるのは、いまなお研究途上にあるからだ。

銀座で珈琲店を経営して六十八年。西銀座に最初の店を構えたのは敗戦から三年後で、営業許可がすぐ下りないため、便宜上の名称「アルカロイド飲料研究所」でスタートした。その名の通り、関口さんはコーヒーの研究に打ち込み、今でこそ多く見かける自家焙煎店の草分けとなった。看板に「珈琲だけの店」と断りがあるように、メニューには五十種近くのコーヒーが並び、『珈琲の焙煎と抽出法』『煙草と珈琲――その伝搬史』など、長年の研究成果をまとめた著書もある。 「中学生のころ、浅草のミルクホールで初めて飲んだコーヒーがすごく美味しいものに感じて。眠気覚ましにいいと聞いて、受験生の時にデパートで器具を買ってきて淹れてみたら、これがちっとも美味しくない。淹れ方で味が変わると気づいて、そこから探求が始まりました。」

関口さんは一九一四年(大正三)浅草生まれ。九歳のとき関東大震災を経験し、大火災の旋風で大八車が宙に舞いあがる光景を目撃したという。ラジオを自作するほどの科学少年で、旧制中学四年から早稲田大学第一高等学院の理学部に進学して音響学を勉強した。

大学卒業後は東芝研究所(現・東芝)に就職するが、三ヵ月ほどで辞め、いまでいうフリーターになる。太平洋戦争には二十八歳で召集され、防衛司令部の兵器修理班に所属した。戦争が終わると、戦友たちと映画館に映写機を納める会社を興し、得意先などの来客にはコーヒーを淹れて出した。

「それが大好評で、『店を開け』とよくいわれました。そのうち仲間の一人が会社のカネを持ち逃げして倒産。食べていくために珈琲店を開いたんです。」

当時、銀座で一番高いコーヒーは一杯九十円と聞いていたので、話題になるだろうと一杯百円の値段をつけた。すると文藝春秋の「目・耳・口」欄にそのことが紹介され、評判が広まった。毎日飲みに来る常連客が増え、そのなかには役者、小説家、経営者などの著名人もいた。

その間、関口さんは適切な環境で十年から三十年寝かせたコーヒー豆は美味しいと知り、「エイジングルーム」と呼ぶ豆の貯蔵庫をつくった。そこから生まれる「オールドコーヒー」の存在は、徐々に知られるようになる。

関口さんはずっと独身で過ごしてきた。

「コーヒーの研究に忙しくて結婚しなかった。現在は亡くなった妹の夫、甥夫婦と同じ場所に住んでいますが、家は別棟で食事は一人でとっています。朝と夜の一日二食ですべて自炊。他人が作った料理を食べていたのは軍隊にいる時期ぐらい」

毎朝八時頃におきて、朝食はパン、ハム、お新香、果物などを食べる。夜はご飯を炊き、キッチンに立って包丁を使い、魚料理や肉料理をつくる。お風呂は一人で入り、十二時ぐらいに甥たちの家へ行って就寝する。寝るとき以外はほぼ一人暮らしで、自立生活ができている。

深川の自宅と店の行き来は、甥が大型スクーターで送り迎えすることが多い。ヘルメットをかぶって後部席にまたがり、甥の背中にしっかりつかまって銀座の街を走る。

関口さんがコーヒーと並んで研究してきたものにパイプがある。

一九六〇年代に日本パイプスモーカーズクラブの発起人に加わり、代表世話人を長年務めてきた。決まった量のタバコで吸う時間を競うロングスモーキングコンテストでは、全日本選手権で優勝したこともある。

「カフェ・ド・ランブル」では、関口さんが仕事の合間にパイプを吸う姿が見られる。加齢によって嗅覚が衰える人は多いが、コーヒーとタバコにこだわってきた関口さんは若い頃の嗅覚が維持できている。

「たばこが健康に悪いというのは迷信みたいに思ってます。長寿の秘訣を聞かれると、身近にストレスの原因を置かないことだと答えていますよ。ストレスが身体に一番悪いんじゃないかな」

第19回関東地区パイプスモーキング選手権大会に出場(2016/6/25)
伊田欣司(JPSC会員)文・写真とも