パイプの愉しみ方
『50にして煙を知る』第9回 あ、針金が折れちゃった!どうしようか。冷や汗 修復顛末記
以前、本欄で紹介した吸い口が象牙製のパイプ。
ずっと眺めたり、手で触って楽しんでいたが、やはり吸いたくなるのが人情。
問題は吸い口の穴がえらく細く小さいため、吸うに吸えない。
とりわけ、吹かしまくりタイプの私には、この手のパイプは苦手である。
穴の掃除をしようとモール・クリーナーを突っ込んでも、入っていかないほど細いから参る。
最近、この道の師匠、平野さんと会う機会があり相談すると、いとも簡単に答えをくれた。
「こういう穴の細いパイプは、針金を通して、掃除するしかないんです」といって、L字型の針金を差し出した。ニヤっと笑うと氏は「大型のクリップを延ばしただけですよ」。
ヘビースモーカー、パワースモーカーたる氏らしい豪快な答えに、当方も「なるほど、たしかに」と簡単に納得。
帰宅して、もらった針金を象牙の穴の部分に入れ、ゆっくりゆっくり針金を回転させながら、まわして押すと、なんと簡単に貫通。吹いてみると空気の通りがずっとよくなった。
「よし、これであとは、シャンクからボウルの底までの穴の部分を掃除すればいい。こっちのほうは楽だろう」と、ふたたび針金をゆっくりまわしながら、押していった。
ところが、少し行くと、まったく先に進まなくなった。「なんで?」
いささかあせりながら、力を入れたら突然、針金がポキリと折れ、中に、折れた針金が残ったままの状態になった。
「ありゃ、こりゃ、まずい」
冷や汗が出ていた。逸品のパイプがこのままつぶれてしまったら、一生後悔するだろう。
「待て待て、あせるな。自分の力じゃどうしようもない。専門家に見てもらうしかない」
次の師匠、外川さんに相談したら、「預かるよ、直しておく」。
しばらくして、戻ってきたパイプは見事に修復されていた。
「これだよ、原因は」―気づかなかったが、シャンクの部分にフィルターが入っていた。そこに針金がぶつかれば、そりゃ、折れて先に進むわけがない。
私はまさか、フィルターが入っているとは気づかなかった。
「パイプの構造を知らない初心者がよくやるミスだな。ついでに中も磨いておいたからね」―さりげない心遣いに、脱帽。
もちろん、フィルターははずした。
早速、修復してもらったパイプを吹かしてみた。
ふつうに吸えるが、やはり穴が細い分、すぐ詰まる。象牙の部分はモール・クリーナーが貫通しないので、両方からぐりぐりやって、適当なところで抜く。
シャンクからボウル底にかけては、簡単に掃除ができるようになった。吸えば、銀巻きの部分が光沢も出てくる。いい感じである。
「二度とヘマはしまい」と心に誓ったが、外川さん曰く
「吸い口の穴が小さいから吸いにくいのは当然。象牙は象牙として素晴らしいけど、吸い口の部分を尿素樹脂かエボナイトでパイプメーカーに新しく作ってもらって付け替えればいい。ふだん吸うときはそちらで吸い、象牙は眺めるために飾っておく時だけ付けたら」と、新しい知恵も授けてくれた。持つべきものは先輩である。