パイプの愉しみ方
Nitra Pipe Club 正会員就任旅行記 その1
私はこの度、スロヴァキア共和国のニトラ市に本拠を置く、Nitra Pipe Club(ニトラパイプクラブ)の正会員になりました。日本人のパイプ喫煙愛好家が海外のパイプクラブの正会員になったのは極めて珍しいとのことだそうですので、就任の模様等を報告致します。
発端は、昨年(2018)秋に東京・浅草で開催した世界選手権大会でした。
実は私は2016年にニトラで開催された欧州選手権大会に岡山パイプクラブのK会長、JPSCのS博士とともに日本チームを結成して出場しました。域外からの特別参加という形式でした。その際、我々日本チームはニトラパイプクラブで中心的な役割をなさっているMichal Koza Sr.共同会長に格別の計らいをして頂きました。Koza氏のご子息で日本に留学した経験があり、日本語が流暢なMichal Koza Jr.氏をわざわざ中東の勤務先から呼び寄せて、日本チーム専属の通訳兼世話係としてもてなして頂いたのです。
K会長は、幸いなことに域外特別参加者の中で第1位となり、大きなトロフィーを獲得しました。K会長はご厚意へのささやかなお礼としてご自慢の高級パイプ1本を通訳役のMichal Koza Jr.氏に贈呈しました。私とS博士は「2018年の東京での世界選手権大会にいらっしゃったら、一席設けます」と約束しました。
さて、2年後の2018年秋に東京で開催した世界選手権大会にニトラパイプクラブは20人の大代表団を派遣しました。Michal Koza Sr.共同会長とMichal Koza Jr.氏の父子も東京にいらっしゃいました。私とS博士は、浅草の天麩羅屋でニトラパイプクラブの選手たちを迎えてささやかな歓迎の席を設けて歓談しました。生まれて初めて食べる本場の天麩羅の味に、皆さんはとても喜んで下さり、その席でIgor Escher共同会長が「ニトラパイプクラブの会員にならないか」と勧誘して頂いたのです。私が「外国人でも会員になれるのですか?」と尋ねると、Igor Escher共同会長は「ニトラパイプクラブは、インターナショナルのパイプクラブで、既に数名の外国人が正会員や名誉会員になっている」との由。私はその場で入会を快諾しました。S博士には日本パイプクラブ連盟(PCJ)の役職に就いている関係から、「名誉会員になって欲しい」とのお申し出がありました。
その後、昨年12月にMichal Koza Jr.氏が仕事で日本に出張に来た際に、私とS博士の会員証用の写真を撮影するなど、入会準備は着々と進み、私が今年(2019年)の夏にニトラを訪問して入会式を行うことが固まりました。
ところが残念なことにS博士は仕事の関係で、8月にニトラを訪問できるかどうかは微妙との由。一人で行くのもいささか寂しいので、旅行仲間で作曲家のT博士に声を掛けたところ、T博士はザルツブルク音楽祭を鑑賞に行きたいというので、日程を調整し、8月中下旬にニトラを訪問する予定を先方に伝えました。幸い、S博士もなんとかその時期に休みが取れそうだということになり、直前になって一緒に行くことが決まりました。
モスクワ経由のアエロフロート便でウィーン・シュベヒャート空港に到着したのが、8月17日夜で空港ホテル泊。翌朝、T博士はザルツブルク音楽祭に向かうため、しばし別行動となり、私とS博士は高速バスをブラチスラバで乗り継いでニトラに到着したのが18日午後。しばしホテルで休憩していると、共同会長の3名、Michal Koza Sr.氏、Igor Escher氏、Maros Strazanec氏とスロヴァキア・パイプクラブ連盟副会長でニトラPC会員のJosef Stanislav博士の4人がホテルに到着しました。
ホテルロビーで旧交を温めながら談笑するうちに、日本から持参したお土産品を贈呈。私達は備前焼のビールジョッキや青磁の茶器セット、九谷焼の菓子器、缶入りの日本酒セットなど日本情緒豊かなものを各人にプレゼント。お返しにJosef Stanislav博士はスタニスラフ社特製のパイプタバコ8缶セット、3名の共同代表からはスロヴァキア産の高級ワインなどを頂戴しました。
ちなみにJosef Stanislav博士は中東欧で有名なパイプタバコメーカーのスタニスラフ社の社長で、頂戴したパイプタバコ缶の表紙にはそれぞれ私とS博士のラベルが貼付してある正真正銘の特製タバコ。しかも嬉しいことに私とS博士のタバコ銘柄の好みを事前にMichal Koza Jr.氏が調べて報告してあったようで、私が頂いたパイプ缶はラタキア葉ベースの濃厚な味、S博士が頂いた缶はバージニア葉ベースの軽妙な味という実にきめ細かな心遣いでした。
歓談が弾む内に、夕方になり、食事に行こうということになり、ライン川支流のニトラ川岸にある静かな高級レストランに案内されました。本館は禁煙なので、喫煙自由の川岸の別棟で賑やかに会食しました。
中欧のスロヴァキアは、東西冷戦期にはチェコと合邦させられてチェコスロヴァキアとなり、ソ連の衛星国として、傀儡共産党政権の自由を束縛する全体主義的な圧政に国民は長く苦しみました。そういう不快な苦い経験からか、画一的なルールの強制には静かに抵抗するという国民の叡智と良識があります。
その結果、過激な嫌煙運動が行政を巻き込んで繰り広げている禁煙強制への支持者は少ないそうで、各飲食店が自由に禁煙、喫煙、分煙を選択できるようです。私はそこに成熟した民主政治を感じました。飲食店に規制の網をかけて画一的な禁煙を強制する東京都や神奈川県、屋外での喫煙を禁止するという根本的な勘違いをして得意げになっている千代田区などの自治体の首長や議員の考えの浅さが、日本人として恥ずかしい限りです。
さてさて、スロヴァキアの飲食店でありがたいのは、美味しいビールが格安だということ。日本の大ジョッキ1杯が大体1ユーロ(約120円)。私はチェコのビールと、アルコール度数がやや高いベルギーのビールが好きですが、「スロヴァキアのビールが地球上で一番うまい」というスロヴァキア人の自慢は、まさしくその通りではないかと思いました。Josef Stanislav博士は、ご自宅が200キロほど離れたチェコ共和国にあり、我々の歓迎のためにわざわざ車で来てくださったもので、当夜中に帰宅しなければならないとのことで、ノンアルコールビールでしたが、そのノンアルコールビールの美味さには驚愕しました。日本のビールメーカー各社は美味しいノンアルコールビールの製造法を謙虚に学んだ方が賢明でしょう。(続く)