パイプの愉しみ方
『50にして煙を知る』第10回 手に入れたパイプレスト、買い損ねたタンパー
夏と冬の年2回、恒例となった日本パイプスモーカーズクラブのオークション。
7月22日当日は大盛況で、会場のテーブルを取っ払って催された。40名近くの参加で、「今日の隆盛、まことに結構なことです」と世話人・梶浦恭生さんのニコニコ顔がすべてを物語っていた。
私はというと当日、仕事のため、遅れて駆けつけた時、すでにオークションはほぼ終了しており、精算作業をぼんやりみていた。
が、持つべきものは親切な先輩だ。私がいなくとも、外川さんは、「これは、小枝にいいんじゃないか」と格安の値でパイプレストを落札しておいてくれた。
パイプレスト―そう、忘れていました。本コラム連載当初、ベント型のパイプに葉を詰める作業中、なんとかパイプを固定するものがないか苦労したことを書いた記憶がある。
「詰める際、パイプを手から放すと転がってしまい、葉が飛び出してしまう」云々と。
その後、慣れるにつれ、片手にボウルを握ったまま、グイグイ葉を詰め込めるようになり、パイプレストは、持たずに今日まできた。
そこにひょこっと登場である。外川さん、過去の悪戦苦闘を覚えていてくれたのかしらん。
これが逸品でした。実用品というよりも美術品に近い。犬の脇にパイプ置きが付いており、なんともいえない趣がある。
この黒い犬はやはり英国犬だろうか。
「何で出来ているのか?」と聞くと真鍮(しんちゅう)製だとのこと。
真鍮―いまどき真鍮製品など身近にない。それだけでも充分アナログ的、レトロな楽しい気分にさせてくれる。
ベント型パイプをさっそく置いてみた。いい風景になる。
普段、吸わないときはどうするか。
簡単。デスクの上でペーパーウェイトになる。
私のように、いまだにペンでものを書く習慣の人間には大変重宝なパイプレストである。
外川さんは「黒の部分が剥げたら、マジックで塗ればいいからさ」とのたまうが、いいえ、剥げた感じが長く使い込んだ味が出て、いいじゃありませんか。
私のような初心者は、先輩たちが選んでくれたパイプが10本も揃えば、充分である。要は後半生の楽しみ、趣味としてのクラブである。
パイプレスト、タンパー、ライター、こういう周辺道具の豊かさが、楽しみを倍化させる。
ところで、今回のオークションにはあの唯一のタンパー専門作家、森谷氏がいきなり6本もの傑作タンパーを格安で出品したそうだ。
ウーンすごい。参加者に尋ねたら、やはり「全部すぐ売れた」と。
そうだろうなあ、これだけは1本買っておきたかったが、遅刻した者の贅沢なわがままか。
最近ホームページにも掲載された文藝春秋5月号の同氏のコラムを改めて読んだが、実に面白い。「燃焼」という行為に尋常ではない情熱を傾けた人物がつくるタンパーだから価値がある。
森谷さん、冬のオークションにもたくさんのタンパー出品してください。