パイプの愉しみ方
日本一の愛煙家 池波正太郎師匠の思い出 2
岡山パイプクラブ会長 香山 雅美
師匠から教わったたばこの買い方について、ご紹介します。
ある時、師匠から電話がありました。
フランスに行ってお土産を買ってきたので遊びにおいで、との由でした。
喜んだ私は、直ぐ夜行寝台に飛び乗り、翌朝一番で師匠宅にお邪魔しました。
「お土産だよ」とわざわざ下さったのは、数々の外国たばこでした。パイプたばこだけで30数種類もありました。
師匠のお心遣いは実に嬉しかったのですが、未熟者の私は愚かにも「師匠、お気持ちは誠にありがたいですが、わたくしダンヒルの965、アンホーラの赤、紙巻はショートピースしか喫いません」と言ってしまいました。
今でもこの時のことを思い出すと赤面の至りです。
「そいつは、いけねぇなぁ、おまえさん、未だ若けぇのに決めてしまっては。人生の楽しみが半減するよ」
「世界中には僕でさえ未だ喫った事のねぇたばこが一杯ある、いろんなたばこを試してごらん。おまえさんが好きなアンホーラも外国に行くと10数種類あるよ」
「それと、外国でたばこを買う時は同じ物を最低2個買いなさい。喫ってみて美味しかったとしても、次に簡単に手に入れられなかったら、美味しい記憶だけ残ってしまい、大した事の無いたばこを手に入れるのに無駄な労力を費やし、やっと手に入れて喫ってみたら、がっかりする事が多いよ」
「それと、無理しても缶入りの高いたばこを買う事をお勧めするよ」
師匠は、本物のたばこ喫いの極意を諄々と若い私に諭して下さいました。
私は、その頃、仕事や遊びで毎年、海外旅行していたので、私は師匠の教えを守って、パイプたばこは必ず3缶ずつ買って、1缶は必ず師匠のお宅へ持参しました。師匠はとても喜んで下さいました。
私も馬齢を重ねて、いつの間にか師匠がお亡くなりになった歳と同じ歳を迎えました。
今では、たばこが好きな若い人に、色々とたばこについて訊かれる立場になってしまいました。
本物の愛煙家だった師匠から教えて頂いた、たばこ喫いの極意を、若い人たちに伝えていくのが、私の残された使命だと思っています。