パイプの愉しみ方
嗚呼、バルカンソブラニー
私はパイプ煙草の幻のブランド、バルカンソブラニーが大好きです。
大好きという表現はおそらく生ぬるいでしょう。
バルカンソブラニー狂というべきです。
40数年前に初めて喫って、以来、その素晴らしい芳醇な味の虜になりました。
パイプ煙草の極致ともいうべき存在です。
しかし、残念なことにとっくの昔に製造中止になっており、発売されていません。
製造中止になった理由は、高級な煙草葉のみを厳選して使用したため、メーカーの採算が合わなかったと聞いております。
40年ほど前でも、1缶三千円程度した高級品でした。
飛鳥や桃山など国産のパイプタバコ缶がせいぜい数百円の時代です。
大金持ちは別として、普通のパイプ党にとっては、普段気軽に喫えるものではなく、とっておきの煙草葉だった筈です。
当時、私がパイプ好きの集まりで、バルカンソブラニーの缶をさりげなく取り出して喫いだすと、皆がさっと注目して「凄いもの喫っているね」、「味見させて」、「俺にも」と次々に手が伸びてきて、戻ってきた時にはほとんど無くなっているということがよくありました。
中には「君はこういう高級な煙草を喫うには、まだ歳が若すぎる。この煙草は人生の年輪を重ねて男の風格が出て、初めて喫うべきものだよ」と訓戒を垂れながら、ご自分のパイプにたっぷり葉を詰める偉い先輩もおられました。
奇特なパイプ煙草製造会社が、世界中のバルカンソブラニーファンの熱望に応えて、時々復刻版を製造してくれます。
製造レシピを手に入れ、ほぼ忠実に再現しているそうです。
復刻版がたまに出ると、ほぼ瞬間蒸発します。
私も運よく見つけたら、即、有り金をはたいてまとめ買いします。
ただ、残念なことに、復刻版と昔の本物のバルカンソブラニーとの間には、やはり味のかなりの違いがあります。わかる人にはわかります。
昔の本物は、今では手に入らない高級な葉を使っていたそうです。
そのことが復刻版と昔の本物の味の違いの原因かと思います。
復刻版を昔の本物の味に近づける私なりの秘訣があります。
本当はあまり教えたくないのですが、この拙い私のコラムをいつも読んでくださっている愛読者様限定で今回、特別に披露します。
それは、購入してすぐ喫わずに、未開封で数年間程よい湿度の冷暗所で寝かせて、煙草葉を缶の中でじっくりと熟成させることです。
「数年間とは、どのくらい?」と思われるかもしれません。
私の経験では、最低5年とお答えしておきます。
ウヰスキーと同じで、缶を開封しないで冷暗所に保存し、寝かせれば寝かせるほどパイプ煙草は味がまろやかになり、美味しくなります。
騙されたと思って、試してみてください。
さて、私がバルカンソブラニー狂なのを知っているパイプ仲間が、「売っているサイトを見つけました。ここで買えば手に入りますよ」と教えてくれました。
喜んで、そのサイトを覗いて見ました。
バルカンソブラニーの白缶が2缶掲載されていました。
説明が無いので詳しくはわかりませんが、復刻版ではなく、昔の本物かもしれません。
価格交渉も可能なようです。
とはいえ元値が桁外れです。
皆さん幾らだと思いますか?。
なんと、EUR 1.899,99。
最初、錯覚して思わず「安い!」と思いました。
しかし、ピリオドとカンマの表記が日本とは違うことをすぐに思い出しました。
一缶950ユーロ‥‥。
もう手に入らない垂涎のパイプたばこ、とは言えこの価格では‥‥。
パイプ煙草好きで、常に300缶以上の在庫を持つ私でも手が出ません。
先日、廃番になるたばこをまとめて40缶買いましたが、それでも88,000円。
バルカンソブラニーの昔の本物なら、一缶1万円位喜んで買いますが、この値段では‥‥。
実は私は、昔の本物のバルカンソブラニーの未開封の黒缶と白のポーチを持っています。
一昨年、運良く買えた復刻版も12缶まだあるので、今回は見合わせることにしました。
売る側がこんな高価な値段を付けたのは、買う人がいるからでしょう。
そう言えば、ドイツ・ケルンのピーターハインリッヒには、1本が千ユーロの超高級葉巻を売っていました。
私の様な庶民とは違う世界があることをつくづく実感しました。
改めて思ったのは、「お金持ちになりたいなあ!」と言うことです。
もう完全に手遅れですが。