パイプの愉しみ方

パイプの愉しみ方

熟成パイプ煙草の味

伊達國重

先日、急に思い立って部屋の押し入れを整理していたら、押し入れの隅の段ボール箱の底から未開封のパイプ煙草Symphonyを見つけた。マックバレンの製品で100グラム缶だ。すっかり忘れていたものだったので、何だか得したようでちょっぴり嬉しくなった。

いつ、どのような状況で購入したのか、完全に忘却の彼方にある。缶の底を見ると10ドル99セントの値札が貼ってある。私が最後に米国を訪ねたのは10数年程前だから、おそらくその時にまとめ買いした中の一つだろう。嬉しいことに最近の「タバコは有害だ」とかの馬鹿げた警告文は何も貼って無いから、その前に買ったものかもしれない。

早速、開缶して味見した。バージニア葉とバーレー葉をベースにキャベンディッシュを加えたごく普通のバージニア系の味だ。ただ、10年以上放置していた間にうまく熟成してくれたようで味が格段にまろやかだ。

口当たりが抜群で、素直に「美味い!」と感じた。

私がいつもパイプ煙草を購入する近所の煙草屋のオヤジは、私のことをよく覚えていてくれて、いつものようにHALF&HALFのパウチ袋をまとめて20個買うと、新しく入荷したばかりの5個入り未開封ビニールパッケージ入りをわざわざ4箱選んでくれる。常連客へのサービスのつもりだろうから、私はにっこりして「ありがとう」と言って受け取る。

HALF&HALFもバージニア葉とバーレー葉が半々にブレンドされている銘柄だから、Symphonyと同じ系統のパイプ煙草だ。ただ、新しい煙草の味は新鮮だが、いささか荒々しい味がする。葡萄酒に喩えれば、ヌーヴォーの新酒みたいなものだ。ピチピチ感がする美味しさがあるが、樽詰めで数年間熟成した葡萄酒とは自ずと味が違う。
HALF&HALFもできれば寝かせて味を試したいが、パウチ袋入りだから、熟成には向かない。どんどん喫ってしまうしかない。

日本パイプクラブ連盟のHPに楽しい記事をよく寄稿しておられる愛煙家の雲造院杢杢愛煙信士氏は、パイプ煙草の味を良くする秘訣を「未開封のまま缶を5年間ほど冷暗所で熟成することだ」と、伝授しておられた。

今回のSymphonyは、押し入れの隅に忘れて放置していただけだから、冷暗所への保存とはまるで違うが、味は確かに良くなった。ありふれたバージニア系統のパイプ煙草で、これだけ味が変わってくるのだから、ラタキア葉やオリエンタル葉系統では、さらに美味しくなるのではないかと期待が膨らむ。

実は、私は台所の下の保管庫に未開封のバルカンソブラニー数缶とダンヒルのマイミクスチャー965や飛鳥の缶などを合わせて100缶ほど大切に保管している。ラタキア系の葉に凝っていたその昔、大好きなバルカンソブラニーが廃番となると知って、慌ててまとめ買いしたものだから、考えてみると30年以上ずっと保管していることになる。

せっかく長期熟成したパイプ煙草。この世とおさらばしない内に味わわないと勿体無いから、これから毎月数缶ずつ開缶して味わっていくことにした。
 ショパンやラフマニノフの音楽を聴きながら極上のブランデーやウイスキーをちびちび舐め、ゆったり味わう熟成パイプ煙草の味。
 人生の極上の楽しみがまた増えた。