パイプの愉しみ方

パイプの愉しみ方

パイプ開発者のモノローグ  第四話 「活性化」

母はヘビースモーカーで、父は無煙派でした。(これは紹介済み)

父はいわゆる株屋で、証券会社の嘱託として、投資相談や個人投資家を集めて小規模なファンドをくんだりしていた(のだろうと思います。……余り知らないのです。実は)

「株が楽しいから、一切のギャンブルと俺は無縁だ……」というような事をいつも言っていました。だから煙草にも手を出さなかった様な事も言っていました。

その父の姉が長寿でした。5年前に101歳で長寿を全うしましたが、亡くなる直前まで煙草をじつに美味しそうに嗜んでいました。

旭川市の土木界のドンを夫として、企業を陰から支えゴッドマザー的な存在だったと聞きます。

99歳の時に久々に会った時には、伯母は、自宅でぷかりぷかりと煙草を楽しんでいました。

「煙草は体に良いのよ。それよりあんた元気?」などと逆に発破を掛けられたりもしました

とにかく「頭が丈夫」な伯母で、最後まで呆けるような事はなかったと聞きました。

一方の父は、仕事柄、企業の盛衰を予測し、株価の推移を図る「罫線屋」だったので、帰宅後は毎日机に向かい、大きな方眼紙を前に広げ、狙いをつけた幾十もの銘柄ごとに株価のグラフを几帳面に手書きしていました。グラフの山谷が語りかけてくる瞬間があったのでしょう。その勘を頼りに、毎日勝負の連続だったようです。

にもかかわらず、76歳の生涯の最終コーナーでは少し呆けが来てしまいました。煙草とは無縁の無煙派だったのに。何故でしょう。あるいは無煙派だったからかな?

血で繋がる姉と弟だからほぼ同じ出来合いなのでしょう。

もし父が愛煙家だったとしたら「呆け」は少なくとも無く、もう少し、少なくとも後10年位はしっかり生きる事が出来たのではないかと思います。生きた環境、さらされたストレスは全く違うのだけれども。

JPSCの長老方は90歳、80歳と高齢でも矍鑠とした方々ばかりです。先輩に「呆け」と「肺癌」はJPSCが誕生して40余年、一人も会員にいないと伺いました。

しまった!

親父に無理にでも煙草を吸わせときゃ良かった!!!

煙草には弱い覚醒作用があると聞きます。ニコチンによるものなのでしょう。

新製品紹介の安全健康喫煙パイプカタログの「口上」にもつらつら書きましたが、コロンブスは新大陸(実際はアメリカ大陸付属の島嶼)の発見とともに「煙草」を発見してしまった。これが瞬く間に全世界に広がった。

それまでに「頭に効く」薬は色々試されたのかもしれない。いわゆる不老長寿薬です。

その中でも「頭につんと来る」ものと「じわっと来る」ものがあったようです。

辛いもの、苦いもの、甘いもの……

これらは薬食いから始まっているに違いない。

砂糖なんかもそうでしょ。お酒もそれだ。お茶は霊薬だったそうです。煙草は「つんと来る」ものだけど、人間の歴史の中で「煙草」ほど人の頭の活性化を実現したものはないのではないでしょうか。

ほぼ同格のものはお茶とコーヒーだけど。

そうです。人類を近世、爆発的に進歩させた原動力が、実は「煙草」なんだ! 絶対そうだ! そうに違いない!

科学者、哲学者、文学者、実業家の机の上には紙巻煙草の吸い殻が溢れんばかりだ!

これが紙巻煙草以前の時代なら、パイプと灰だったのだ!!!

ランプの火屋(ほや)をちょいと上げて煙草に火を移す行為から、人類の知性が広く一般的に活性化されたのだ!

それまではひょっこり現れる大天才により、進歩への刺激がもたらされたりしたのでしょうが、煙草は人類の知性をベースアップした。(元人事部長ですので業務用語出ました)

こんな良いものにつべこべ言ってはいけません。

決して。ねえ。

パイプ開発者 紺矢哲雄