パイプの愉しみ方

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偽物ダンヒルパイプにご用心―その2―

日本パイプクラブ連盟副会長 岡山パイプクラブ会長 香山 雅美

日本パイプクラブ連盟事務局からの依頼で、先般、同連盟のホームページに「偽物ダンヒルパイプにご用心」と題した拙文を寄稿した。

予想を上回る大きな反響があった。

 

東京・隅田川河岸での花見や岡山パイプクラブ東京支部の楽しい会合などに参加した時、パイプ仲間の友人数名から「これは本物ですか? 偽物ですか?」と数多くの「ダンヒルパイプ」の鑑定を依頼された。

私の拙文をご覧になって、ご本人も何となく真贋が気になっていた「ダンヒルパイプ」を持参されたのだと思う。

気心の知れたパイプ仲間の友人知人の依頼だから、私は気安く無料鑑定する。

 

 

残念ながら、かなりの数が偽物だった。

偽物をつかまされた経緯を尋ねると、やはり海外や国内のネットオークションや蚤の市などで安く入手した中古パイプだという話が多かった。しかし、中には仲の良い友人から譲ってもらったり、そこそこの煙草店でかなり高い値段で購入したものもあった。

仲間との友情や店の信用に、傷がつかないかが、気がかりだ。

 

「ダンヒルパイプ」を仲間に譲った方も、煙草店のご主人も、まさか偽物と分かっていて譲ったり、販売したわけではないだろう。好意で譲ったり、販売したものだと私は信じている。

だから私が観てすぐに偽ダンヒルと分かっても「偽物です」とは極力言わないようにしている。「気軽な普段遣いのパイプになさい」という言い方にしている。

鑑定を依頼した方がやはり傷つくからだ。

察して頂きたい。

 

読者の皆様方の中には、「本当にお前はそこまでダンヒルに詳しいのか?」と疑問をもたれる方も多いだろう。

そこで私が真贋を判別出来るようになった経緯を概略お話しておこう。

 

私がパイプ喫煙を始めた50年ほど前は、やはり初心者の常として世界中の色々なメーカーのパイプを購入していた。国内だけでなく世界中から買い集めた数百本のパイプコレクションの本数が自慢だった。しかし、無闇に数多く蒐集してコレクションの数を誇っても、当時のパイプの先達からは「それはすごいね」と軽く鼻で笑われるのが常だった。

当時、いっぱしのパイプコレクターを自認していた私の姿を今になって思い描くと、その未熟さと無邪気さに赤面するしかない。

 

パイプを喫い始めて数年経って、この道の諸先輩から様々な薫陶を受け、教えを授かると、集めたパイプの数を誇るより、どれだけ良いパイプを持っているかが本物の蒐集家の証だということが否応なく分かってくる。

平たく言えば、量より質だということだ。

 

そこで私はまず高級品としての評価が確立しているダンヒルパイプの蒐集を始めた。少しずつ集めているうちに、知識が増し、イヤーコードで製造年が判ることを知った。私の誕生年に製造されたダンヒルパイプを1本手に入れてからは、製造年別のダンヒルパイプのコレクション作りを始め、いつしか百本を優に超えるコレクションを完成していた。

 

ロンドンのダンヒル本店には2回しか行っていないが、出張で香港へ行く機会が多かったので香港のダンヒル支店で購入した。日本国内では東京・銀座の菊水さんにコレクション作りでとてもお世話になった。

 

1993年10月にダンヒル創業100周年記念展が日本橋三越で開催され、ダンヒルミュージアム所蔵の逸品パイプが披露された。東京・銀座のダンヒルショップで盛大なパーティーが催され、日本国内から30名のダンヒルファンが招待され、来日したリチャード・ダンヒル同社会長を囲んでのパイプ談義に花が咲いた。不肖私もその末席に加えて頂いた。

 

その時、私はまだ若かったので、眼鏡、時計、ライター、スーツ、ベルト、靴、靴下、ハンカチにいたるまでダンヒル製品で揃えてパーティーに出席。この時とばかりに持参したダンヒルパイプは秘蔵のDR5スターだった。

リチャードさんが目を丸くして「君は歩くダンヒルの広告塔だ」と、とても喜んでくれたのが懐かしい思い出だ。

 

そのパーティーには「日本一のダンヒルパイプコレクター」を自認しておられた東北地方の素封家の方が当然招かれていた。この方は、日本パイプクラブ連盟の会員ではなかったが、そのパイプコレクションは日本中に鳴り響いていた。その方が、稚気溢れるというべきか、リチャード会長に随行の営業部長氏に、持参した自慢のコレクションを披露した。

 

この営業部長氏は、その多くのコレクションパイプを手にすると、瞬時に右と左に分けていった。そして曰く「こちらはダンヒルとして自慢してください、こちら側は気楽に家で普段使いでお願いします」。100本以上のダンヒルパイプの鑑定に要した時間は僅か5分足らずだったと記憶している。ご本人の名誉のために、判別結果については触れないが、「気楽な普段使いのパイプ」が予想外にあって驚いた。

 

その目利きぶりの凄さに恐れ入った私は、営業部長氏に自己紹介し、鑑定方法を教えて下さいと頼み込んだ。「歩くダンヒルの広告塔」とリチャード会長に喜んでもらえた私の熱意を評価してか、営業部長氏はOKしてくれた。宿泊していたホテルが偶然同じだったので、翌日の夜、ホテルのバーでスコッチウイスキーを飲みながら、秘訣というか極意についてじっくりと伝授して頂いた。わからないところや微妙なところは何度もしつこく納得いくまで繰り返して尋ね、その場で懸命に頭に叩き込んだ。

 

岡山の自宅に戻って、私の自慢のダンヒルコレクションを早速調べた。

結果は、愕然というしかなかった。全部が正真正銘の本物だと信じていたのに、偽物の数が実に18本に上った。その全てが外国で中古品として買ったものだった。骨董市や骨董屋で安く買ったものは仕方ないが、イタリア、フランス、デンマークのそこそこ有名な煙草店で買ったものの中にも偽物が含まれていた。

 

つまり半世紀も前から中古品のダンヒルパイプの中には偽物が数多くあったということだ。

 

読者の皆様方。

国内のヤ●●クやメ●●リだけでなく、海外の通販サイト、さらに海外旅行先の店でも中古品のダンヒルパイプにはくれぐれも用心されたい。