パイプの愉しみ方

パイプの愉しみ方

梅雨時はタバコが一番美味しい季節

愛煙家 伊達國重

全国的に梅雨に入りました。
雨が多くて湿度が高いので梅雨の季節を嫌う人が多いですが、本物の愛煙家はおそらく違うでしょう。
なぜならタバコをおいしく味わうには、湿度が高い梅雨時が最も適しているからです。
ただし、大事な条件があります。それは気温があまり高くないことです。
つまり、涼しくて空気がジトジト湿っている時はタバコをおいしく味わえるが、暑いとおいしくなくなるということです。

 

私は毎年、梅雨時を迎えると、いつも涼しい山や高原に出かけてタバコをじっくり味わうことにしています。
5月ごろに、「さあ、今年はどこに出かけようかな」と考えて、旅行の計画を立てます。
仕事や用事で忙しい時は、手近な東京・奥多摩の宿坊を泊まり歩いてタバコを味わうことが多かったですが、今年は少し足を伸ばして福島の裏磐梯高原に出かけることにしました。
日常を離れる気分転換の小旅行ですから、もちろん温泉付きで二食つきの宿を探します。

 

昼前に自宅を出て東北新幹線でまず郡山に。駅の立ち食い蕎麦で軽くお昼を済ませました。立ち食い蕎麦とは思えないほど美味しかったです。1時間に1本の磐越西線に乗り換え、40分ほどで猪苗代駅に到着。千円札の野口英世博士がこの駅から世界に羽ばたきました。時間に余裕があればバスに乗って野口英世記念館に足を伸ばしても良いでしょうが、今回は割愛しました。

 

小雨模様で涼しいです。空気が美味しい。早速、パイプで一服。タバコがうまい。
少し猪苗代駅周辺を散策して時間を潰して磐梯東都バスに乗り換えです。やはり1時間に1本程度ですから、あらかじめバスの発着時刻を調べておいた方が良いでしょう。客はまばら。目指すは終点の裏磐梯高原駅。40分ほどで着きました。

 

裏磐梯高原駅の辺りは標高850メートルほど。軽井沢と同じくらい。涼しいというよりもひんやりします。霧雨の中を傘なしで少し歩いて宿に夕方着きました。夕食前に露天風呂に。湯量はたっぷりで掛け流し。霧雨に打たれながら高原の景色を眺めていると、人生の至福を感じます。
夕食は山菜料理。味付けに工夫を凝らしており、なかなかのもの。晩酌に磐梯町の榮川の純米酒を注文。聞きしに勝る素晴らしい銘酒でした。寝る前にパイプで軽く一服。

 

翌朝、朝ご飯を済ませて、五色沼辺りを散歩しながらじっくりパイプを味わおうと思っていたら、突然の豪雨。しばらくしたら止むだろうと思っていたら、小一時間で止み、昼前に宿を出ました。
ひんやりした湿度100%の空気。裏磐梯高原は、梅雨時はオフシーズン。しかも豪雨の後とあって観光客の姿はほとんどありません。五色沼をおもむろに回りながら、休憩ベンチで一人パイプを味わっていると、タバコのうまさが身に沁みます。空模様は今にも降り出すかという曇天ですが、幸い時々パラパラと小雨が落ちる程度。傘をリュックから出すほどでもありません。

 

裏磐梯に限らず高原が喫煙の楽しみにふさわしいのは、気温が低いのに加え風が吹くので藪蚊や蚊がほとんどいないことです。ただし、ブヨは多少います。
自然に囲まれて座ってじっくりとタバコの味と香りを味わいたい愛煙家にとって、藪蚊は最大の天敵。藪蚊が次々に襲来したら、タバコどころではありません。虫除けスプレーをあらかじめ全身に振りかけるという方法はありますが、興趣がはなはだ削がれます。

 

ゆっくり4時間ほどかけて五色沼を散策して宿の近くに戻ったところで、本降りの雨になりました。近くの土産物販売店兼飲食店に逃げ込んで遅めの昼食を済ませ、パイプで一服しようと店員に喫煙場所を尋ねたら、裏庭に屋根付きの休憩場所があるとのこと。太い丸太を椅子がわりに並べた場所でしたが、落ち着いた景観が良く、とても気に入りました。

 

そこでまず味わったのが葉巻。私は普段はもっぱら経済的なパイプタバコですが、愛煙家にとっての最大の贅沢はやはり葉巻です。まずニカラグア産のロブスト系。雨が降りしきる裏磐梯高原で一人景色を楽しみながら食後のコーヒーを飲み、葉巻をゆっくり味わいました。

 

雨は小降りになりました。午後3時を過ぎ、急にひんやりしてきました。空気は湿度たっぷりでとても爽やか。快適です。急いで宿に帰る必要もないので、次に味わったのがハバナ産のコロナ系の高級品。ニカラグア産の葉巻は申し分なく美味しいですが、ハバナ産はやはり格別の味わいです。タバコを味わえる幸福な無上の時と言えるでしょう。

 

タバコがうまい、生きていて良かった、人生は価値があるとしみじみ思いました。
梅雨時に裏磐梯高原までわざわざやってきた甲斐がありました。

 

 

来年の梅雨時もまた裏磐梯にタバコを喫いに参ります。