パイプの愉しみ方
続 偽物ダンヒルパイプにご用心 その4補記 C国製のパイプ
続・偽ダンヒルシリーズの前回(その4)の拙稿「ホンモノそっくりさん出現」で、私はC国の悪い業者が木工職人に偽造させたダンヒルパイプが、インターネットの通販サイト等で本物と偽って高価な金額で売っている実態に警鐘を鳴らした。
これらの偽ダンヒルパイプは、まさに本物そっくり。刻印などを基にした通り一遍の鑑定方法では真贋の区別が難しい。ダンヒルパイプ鑑定人の異名がある私でもぱっと見ではなかなか分からない。日本のパイプ愛好家の中には騙されてC国製の偽ダンヒルパイプを掴まされてしまった方が既に相当数いるだろうと私は推察している。
ところで、読者の皆様はC国製のパイプを実際にご覧になったことがあるだろうか。私は今年7月に東京・銀座で開催した東京パイプショーで購入した1本と、C国人バイヤーから手土産代わりに貰った1本を所有している。せっかくの機会だから、前回の拙稿の補記として私が知っているC国のパイプとパイプ喫煙状況について簡単に紹介しておく。
不動産バブル崩壊真っ只中のC国では、愛煙家の中でパイプ喫煙がそこそこのブームになっているそうだ。愛煙家たるもの経済的に困窮しても煙草は喫いたい。これは世の東西を問わない。しかし、もうお金が無いから、普通に売られている紙巻きのシガレットは気安く買えない。
となると、安く煙草を味わえるというランニングコストの良さからパイプ喫煙に目が行くのは当然だ。さらに言えば、道端などに捨てられている喫い殻、いわゆるシケモクを拾って集めた煙草葉をパイプに詰めて喫えば、そこそこ美味しく味わえるという辺りがC国のパイプブームの真相だろうと睨んでいる。なぜなら外国製のパイプ煙草がC国に大量に輸入されているという話を聞かないからだ。
喫煙具であるパイプへの人民の需要が高まれば、当然、C国の製造業者はパイプを製造して売るようになる。パクリ大国のC国の業者とはいえ、偽物ばかりを作っている訳ではない。良いパイプも作るし、評価が難しいパイプもある。
まずC国製の良いパイプから紹介しよう。私が7月7日に東京・東銀座で開催した東京パイプショー2024で購入したパイプだ。珍しくC国人業者が出店していた。つい足が止まり1本のパイプに目が惹きつけられた。私好みの意匠だ。「C国製パイプもこんな洒落たデザインが出来るのか」と素直に感心した。
ボウルの底には「TOKYO 2024 PIPE SHOW CHINA」と刻印。C国製だと明記しており真っ当だ。その上には人名か会社名らしきものが刻印してある。「GH ZHANG HQ ZHAO」。ZHAOは漢字表記で「趙」、ZHANGは「張」だろうが、それ以上のことは分からない。店主に聞いたら「欧州の若手のパイプ作家から実物のパイプとその意匠権を買って、C国人の職人にそっくりに造らせた」との由。値段は3万3千円と妥当なものだったので、即購入した。早速、喫ってみたが、煙草が美味しく味わえた。合格!
次に評価が分かれるだろうC国製パイプを紹介する。
先日、岡山の私の会社に高級印材の在庫が残っていないか探しに来たC国人バイヤーが、C国製の新品パイプを手土産がわりにプレゼントしてくれた。私がパイプ愛煙家だということを下調べしたものとみえる。
写真がそのC国製のパイプである。読者の皆様によく判るように3枚ほど写真を掲載しておく。どこにも刻印は無いものの、一見するとなかなか立派なパイプである。全長14cm程の小ぶりのパイプだ。金属製の巻きがあるが銀巻きではない。
評価が割れるのは材質がブライヤーではなく、オークウッドだということだ。オーク材は重厚感があり、加工しやすいから家具などによく使われる。しかし耐熱性は乏しいから、パイプに好適の材質とは言えない。喫い方にもよるが、数回使えば、ボウル内部から焼け焦げて使用不能になる。
では、C国での市販価格はどのくらいだろうか?
初対面の方に値段を聞くのは、手土産とはいえ失礼と思うので、遠回しに伺った。
何と、100人民元(日本円で約2000円)だという。使い捨てのコーンパイプ並みだ。
せいぜい数回しか使えない使い捨てパイプでも、2千円の価格なら合理性はある。パイプ入門者向けのお試しパイプでも良いし、あるいはロングスモーキング大会の大会使用パイプに使えないだろうかと思った。
というのも、ここ数年、良い材質のブライヤーの原木は、C国のパイプブームに乗ってC国人業者が買い占め、産地で品薄になり価格が高騰している。原木高騰がパイプの市販価格にも反映して、工場でまとまった数を予め量産する大会使用パイプでも1本1万数千円に跳ね上がっている。
世界各国のナショナルパイプクラブを傘下に置くCIPC(国際パイプクラブ委員会)が公認している大会パイプの材質はブライヤーのみである。従って新品の大会使用パイプを参加者に支給して競技する全日本選手権大会や世界選手権大会、ワールドカップなどは参加費が跳ね上がってしまう。パイプ愛好家が参加したくとも、参加費が上がり過ぎて開催が次第に厳しくなりつつあるのが現状だ。かといって材質がブライヤーなら中古の使用パイプでもOKとすると、パイプ仲間の親睦が主な目的でもあるローカル大会なら許容されようが、厳格な統一ルール下で愛煙家がロングスモーキングの技を競う大きな大会にはそぐわない。
ブライヤー限定というCIPC規定を変えるだけで、全日本選手権など大きな大会の参加費を大幅に下げることが可能となる。これにより参加者の裾野が広がることが期待できるわけだから、使い捨てのオーク材パイプの採用も一考の余地はあるだろう。CIPCに大会規定の変更もしくは弾力化を打診してみたいと考えている。