パイプの愉しみ方
続 偽物ダンヒルパイプにご用心 その9 読者のご質問にお答えします
この連載を続けていると、パイプ愛煙家の読者の方から、様々な質問やパイプの真贋鑑定の依頼が寄せられる。質問は初歩的なものから高度な内容まで様々である。個人的にお名前やお顔を存じ上げている方には、私ができる範囲で直接お答えしている。ダンヒルパイプの真贋を鑑定して欲しいというご要望にも気安く応じている。パイプ仲間としての信頼関係があるからだ。真贋鑑定の秘訣とノウハウもどんどん伝授している。もちろん無償である。多くのパイプ仲間に私の知識と経験を共有してもらいたいからだ。
一方で各地のパイプクラブに入っておられず、お名前もお顔も知らない方には、どこまでお答えしたら良いのか迷ってしまう。お便りの文面を読んで判断しているが、残念ながら回答をためらい、保留することが少なくない。パイプ仲間としての一定の信頼関係がまだ出来ていないからだ。
パイプクラブはパイプ喫煙愛好家の親睦団体である。敷居は決して高くない。各クラブの入会審査をパスすれば老若男女誰でも入れる。シガレット愛煙家も大歓迎。クラブの先輩方が親切にパイプの喫い方を手ほどきしてくれるはずだ。体験入会もOK。喫煙はなさらなくともパイプ自体に興味がある方でも歓迎する。興味を持たれた方は一度、日本パイプクラブ連盟事務局に問い合わせてみて欲しい。
もしご自身の住んでおられるところにパイプクラブがなければ、ご自身でクラブを立ち上げることを考えては如何か。3名集まればクラブとして登録可能。費用は低廉である。ちなみに日本パイプクラブ連盟は全日本選手権大会を開催し、全国各地のパイプクラブの活動を支援するのが目的の歴史と伝統ある緩やかな統括組織だ。役員全員が私を含め手弁当の奉仕精神でやっている。高尚な趣味・嗜好であるパイプ喫煙の素晴らしさを多くの方々に知って頂き、仲間を増やしたいと願う筋金入りの愛煙家の団体である。
前置きがやや長くなった。
今回は、パイプ愛煙家の皆様からの様々なご質問に私なりにお答えしたい。
「高価な作家ものパイプをようやく買ったのに、なぜあまり美味しくないのか?」
「高級パイプ、たとえばダンヒルなら煙草が美味いのか?」
「安いパイプはダメか?」
「どのパイプが一番お勧めか?」
中には「ダンヒルの偽物をつかまされたが、結構美味しく喫える。なぜか?」というものまである。
以上のご質問は煎じ詰めれば、「どうやったら美味しくパイプで煙草が喫えるか」という内容に集約できよう。
私はこの偽ダンヒルパイプに関する拙い連載記事で、「パイプは煙草をおいしく味わうための道具である」という実用派の立場から色々と好きなことを書き連ねてきた。全て私が実際に見聞、体験したことをありのままに記したものであり、私の偏見や思い込み、勘違いはあるかもしれないが、ウソや脚色、誇張などは一切ない。
ここからは私、香山雅美個人の限られた経験に基づく回答である。色々と厳しいご指摘、ご批判があろうことは覚悟している。「香山は何も分かっていないな」と笑われても結構である。
ご笑読頂きたい。
パイプ歴50余年、毎年少なくとも3本、多いときは20本以上様々なパイプを購入して来た。おそらく1000本を超えるパイプを喫ってきたと思う。その中には1970年代から愛用して今でも喫い続けているパイプが数本ある。愛用のパイプに共通しているのは、パイプ本体の煙道の内径が3 mm〜3.5mm ということだ。
40年以上前のことだろうか、私がパイプ喫煙の駆け出しだった頃に、日本パイプスモーカーズクラブ(JPSC)の関口一郎氏から「香山君。パイプを買ったらすぐ3mmのドリルで煙道を拡げ直すとパイプ煙草が美味しく喫えるよ。僕はいつもそうしている」と教えて頂いた。

上図:パイプの各部名称
関口氏は第二次世界大戦前からパイプ喫煙一筋のJPSCの最長老。先年、105歳で物故されたが、お亡くなりになる直前までお元気で、ご自身で歩きパイプをプカプカ喫っておられた。早稲田の学生時代からの愛煙家と聞くから喫煙歴は90年近いだろう。
関口先輩に秘訣を教わるまでは、煙草葉の種類に応じてそれぞれ味わうパイプを使い分けていた。つまり、このパイプはバージニア系のタバコが美味い、このパイプだとラタキア系が美味い、これはオリエント系という具合である。これは岡山パイプクラブの先輩諸氏から習った方法である。きちんとした合理性があってその良さを実感できて納得できる方法だ。
経済的な事情はあるかもしれないが、私は初心者の方には煙草の種類や銘柄によって喫うパイプを使い分けるという方法をお薦めする。さらに同じパイプばかり何日も続けて喫うのではなく、一度喫ったパイプは1週間、できれば2週間はパイプレストに置いて休ませる方が良い。パイプが長持ちするから、長い間、愛用パイプで美味しく煙草を味わえる。靴の履き方と同じだと思って頂きたい。この方法だと、外出する際には少なくとも3〜5本以上のパイプを持ち歩くことになり、煙草の銘柄も同じ数だから荷物が多くなる。これは已むを得ない。しかしパイプ煙草の味わい方は、煙草葉や銘柄だけでなく喫う時の気分や環境で左右される玄妙なものなのだ。この程度のことを面倒臭がらないで欲しいと思う。
つい香山流パイプ喫煙術の話に脱線してしまった。偉そうなことを言って申し訳ない。
元に戻す。
所属クラブは違うが、畏敬する大先達直伝の貴重な教えである。すぐに持っている様々なメーカーの数百本のパイプの煙道の口径を測定した。最小は1.5mm から最大は4 mm までと大小様々だった。
ちなみにその当時持っていたダンヒルパイプの煙道内径を測ってみると、小ぶりのパイプは内径3 mmで、大きめのパイプは内径3.5mm と、きちんとパイプのサイズに従って統一されていた。
私は探求心が旺盛なタイプだ。なぜパイプの煙道の内径により煙草葉の味が異なるかを実地で徹底的に調べてみた。私の場合、バージニア系や着香タイプの煙草を一番美味しく感じるパイプは煙道内径2.5mmであり、3mmでもまあまあ。ラタキア系が美味しいパイプは3.5mmで、3 mmでもまあまあということが分かった。
試行錯誤と実験を重ねた結果、私の場合は使用パイプを1本だけに限定するならば、ボウルの煙道内径3.5mmがベスト。大好きなラタキア系の煙草葉をゆったりと味わえるからだ。ようやく私、香山向きの汎用パイプを見つけたわけだ。
関口先輩は煙道内径3 mmを薦めて下さった。
私は3.5mmが自分に最も合っていると感じた。
これは好きな煙草葉の種類と、パイプの喫い方に左右されると思う。
関口さんは主にバージニア系、着香系の煙草を嗜んでおられたと記憶している。銀座のコーヒー喫茶のご主人でいつもパイプを咥えておられたから、香りが強いラタキア系は遠慮されていたのだろう。火種を小さくして煙草の燃焼速度を遅くし、ゆったりと味わうクールスモーキングに徹しておられたから3 mmが向いている。
私もクールスモーキングを心掛けているが、普段は煙草の味わいの方を優先する。美味しく喫うには、燃焼速度を遅くし過ぎない方が良いと思う。関口さんよりパイプの喫い方がやや強いと思う。具体的に言えば、ひとつまみ約3グラムの煙草を1時間ほどで喫い切るくらいが一番美味いと感じる。
読者のご質問への私なりの回答をまとめると、以下の4つに集約できる。
① 主にバージニア系、着香系の煙草を喫われるなら、煙道内径2.5mmのパイプが良い。3mmでもOK。
② 主にラタキア系の煙草がお好きなら3.5mmのパイプが良い。3 mmでもOK。
③ 1本のパイプで銘柄に拘らず様々な煙草葉を喫われるなら3mmのパイプが良い。どの銘柄の煙草葉でも概ね美味しく味わえる。
④ 高価なダンヒルパイプだろうが、廉価なパイプだろうが、価格の差はあまり関係ない。
――ということである。
他にもボウルの内径の深さや形状とボウルの材質、エボナイトの穴や形などいくつか考慮すべき要素があるのだが、私の以上の回答で要点は突いているとお考え頂きたい。
さて、ダンヒルのパイプは小ぶりが煙道内径3mm、大ぶりが3.5mmと申し上げた。煙草葉の種類を選ばず、大半のパイプスモーカーがパイプ喫煙を楽しめるように考え抜いて作っている訳だ。ラタキア系煙草が好きでダンヒルファンだった私が、ますますダンヒルパイプに惚れ込んだのは言うまでもない。
ダンヒル社が後発のパイプメーカーながら世界一有名なパイプメーカーにのし上がったのは、ブライアー原木やエボナイトの品質の素晴らしさ、加工の良さだけでなく、考え抜いた煙道の内径が要因の一つだと思う。おそらく実験に実験を重ねて内径3mmと内径3.5mmに到達したのだと推察している。
ところで、煙道内径3mmと3.5mm以外のダンヒルパイプはあるのか?
実はあるのだ。
ただ、誰でも読める日本パイプクラブ連盟の公式ホームページの記事にこれ以上詳しく書くのは避けたい。
なぜなら、私のこの記事を読んだどこかのダンヒルパイプ贋作製造者に、真贋鑑別法の秘訣の一つを教えてしまうことになりかねないからだ。
既にギリギリの線まで踏み込んで書いている。ご容赦あれ。
話がかなり長くなった。稿を改めたい。
次回はその9補記として、ハンドメイドパイプ作家や他のパイプ製造会社の煙道内径サイズについてあれこれ紹介したい。
編集部追記:
過去の関連記事
パイプの世界の超人・関口一郎氏、満102歳の誕生祝い開かる
https://www.pipeclub-jpn.org/pipe/detail_217.html
連載「関口一郎 パイプと吾が人生を語る」1~18のリンクも貼られています。
是非一緒にご覧ください。