パイプの愉しみ方
『50にして煙を知る』第12回
西日本からもタンパー作家が名乗り東西の両雄並び立つか?
前回、「第35回全日本パイプスモーキング選手権大会」に初参加記を寄せたが、世の中は広いと痛感する出来事に遭遇した。
岡山パイプクラブ幹事長の香山雅美さんは、この世界ではタイトルを総なめにしている強豪として知られる人らしいが、初心者である私はもちろんお会いしたこともなかった。
その香山さんから大会会場で突然声を掛けられた。着物姿でスキンヘッドだから、私は僧職がパイプを吸っているものだと思い込み、びっくりしたが、その人が香山さんだった。
「いやぁ、小枝さん、いちどお目にかかりたかったですよ」。
「はあ、また、なんで無名の私なんぞに」と思いきや、
彼は以前、私が小欄で書いた森谷さんのタンパー作家ぶりと、象牙のパイプが詰まり、クリップで煙道を貫通させようとして失敗した話を覚えていたのだ。
「タンパー作家は森谷さんだけじゃありません。私も結構、作っていますんでね」と、いきなりいくつものタンパーを私にプレゼントしてくれた。それじゃあ、このコーナーで紹介しないわけにはいかない。
香山さんは稼業が書道用品屋さんらしい。あの習字で使う毛筆だ。
面白かったのは筆の柄の先に水牛の角を取り付けた見事なタンパーだ。
これは細くて長く、とても使いやすい。さらに大きな特徴は、柄に仕込まれた長いピアノ線の存在だ。
象牙の細い煙道に突っ込んでも、強い鋼のピアノ線だから楽に貫通して掃除ができる。
「小枝さん、クリップを延ばすんじゃなく、これを使ったら、簡単ですよ」と。
もうひとつは、なんと陶器のタンパーだ。「ほおー」と感心していたら、「これはね、実は筆置きです」と謎解きをしてくれた。確かに。
「商売用ですが、これはタンパーになると思いましてね」。なるほど、アイデア賞もんだ。使ってみたが、陶器の重さがほどよくタバコの葉を押さえ、なかなかの使い心地である。落っことして割らないように注意、注意。
さて、この筆の柄タンパーを自称唯一のタンパー作家・森谷さんに見せた。
この大会で岡山パイプクラブが団体優勝し、大会後に浅草で開いた祝勝会に、森谷さんも私も同席させてもらった際のことだ。
「ふーん」。
森谷さんの第一声だ。おもむろにピアノ線を引っ張り出して眺めると一言。「どこの馬の骨かもわからんピアノ線ですね」って。何のこっちゃ?
「ピアノ線はスウェーデン製の鋼じゃなくちゃあいけません。硫黄分が少ない一級のものを使わないとね。アメリカ軍の対空砲火器の砲身はすべてスウェーデン製です。それくらい鋼の強さが違うんだな。このピアノ線、失格」。
水牛の角も気に入らないらしい。
おもむろに、森谷氏は私の前に新作タンパーを差し出し、いつものように、プレゼントしてくれた。それはカーボンファイバーの両端に象牙をあしらった自信の新作であった。
「どうですか。宇宙技術の粋を集めたカーボンファイバーと、悠久のアフリカのサバンナを闊歩した象の牙のコラボレーション。東南アジアあたりの泥田をはいずりまわっていた水牛の角とは比較にはなりませんなあ」。
このみなぎる自信と確信こそ、唯一のタンパー作家の吐く名言と言わずしてなんだろうか。
もちろん、両氏はこの日、互いに「やあやあ」と笑顔であいさつしている。
「両雄並び立たず」ともいう。東京と岡山のタンパー作家、この先、どんな「竜虎相打つ」タンパー合戦を展開してくれるのだろうか。
私は両氏からその都度、新作タンパーをいただきながら、洞が峠を決め込むことにする。