パイプの愉しみ方

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パイプ よもやま話 鼎談 その4 ホワイトスポット後編

パイプの騎士・柘恭三郎氏(柘製作所代表取締役会長)
国際パイプアカデミー会員/日本パイプクラブ連盟(PCJ)理事長兼事務局長
/日本パイプスモーカーズクラブ(JPSC)世話人代表・青羽芳裕氏
PCJ副会長/岡山パイプクラブ会長・香山雅美氏

 

司会:
かなり脱線気味なので、ダンヒルのホワイトスポットの話に戻りましょう。
青羽:
前回の記事で話に出たホワイト・ドットのドイツのファウエンだけど、ある時からホワイト・ドットの白色が少しグレーがかった色味になった。
香山:
アレは要するにパテント(特許権、知的財産権)の関係だと僕は理解している。確か、ダンヒルがある時、ホワイトスポットで商標登録を取得した。ファウエンはそれを不満に思って裁判に訴えた。そしたら裁判に負けてしまったからパテント逃れで色を変えたという理解だ。その頃は既にホワイトスポットの名前が一般名称になってしまっていたからね。
柘:
だからホワイトドットの色を微妙に変えたんだろうな。材料もアクリルにして灰色っぽくしたんじゃないかな。
香山:
離れて見れば白色なんだけど、近くでよく見ればダンヒルのホワイトスポットより少し大きいし、色味も少し灰色っぽく青みがある。
ただファウエンの名誉のために補足すれば、確かにパテント裁判には負けたがファウエンはダンヒルよりも歴史が古いパイプメーカーで、ホワイトドットはダンヒルのホワイトスポットより古い。そんなことがファウエンの文書に書いてある。
青羽:
裁判で負けてもファウエンはホワイトドット自体をやめることにはならなかったわけだよね。
香山:
そうなんだけど、最近のファウエンの新しいパイプにはホワイトドットが付いていないものがあるな。詳しい事情は知らないけど。
柘:
ファウエンはあの頃、イケイケドンドンで伸びていた会社で9mmフィルターもファウエンが始めたわけだよね。今でも残っているけど。
司会:
ところで外国製の精巧な偽物ダンヒルはホワイトスポットで判別できますか?
柘:
私はパイプ全体をよく眺めれば、「これはどうしようもない偽物だ」と分かる場合もある。
香山:
昨年のパイプショーで、おそらく外国製のダンヒルパイプそっくりの白い点が吸口にあるパイプを、「これはダンヒルだ」という人がいた。私が「違いますよ」と言っても「いいやダンヒルなんだ」とおっしゃる。吸口に本物そっくりの白い点があればダンヒルだと信じ込んでしまうわけだ。
だけど、そのパイプはシェイプ(姿、形状)がダンヒルとは似ても似つかない。そんなシェイプのダンヒルパイプは存在しないんだけど、白い点があるばかりに騙されてしまう。私が「そんなシェイプのダンヒルはありません。ダンヒルはそんなシェイプは作りません」と言っても理解してくれないわけだ。
恭ちゃんが言う「パイプ全体をじっと眺めれば真贋がすぐに分かる」というのは、本当に目の肥えた人ならその意味が理解できるけど、ただ、それを普通のパイプスモーカーに求めるのは無理ですよね。
司会:
つまり、目の肥えた人は、パイプ全体の形状とバランスで真贋が分かるけど、ダンヒルパイプに慣れ親しんでいない人にはなかなか難しいということですね。
青羽:
このカタログは1910年から1926年のダンヒルのカタログを集めたもんですよね。驚きました。
今回の鼎談はダンヒルのホワイトスポットの話をしてるんだけど、ホワイトスポットの無いダンヒルが並んでいる。
ホワイトスポットがつくのは1912年からなんで、その前になるんでしょうね。
柘:
みんな銀巻だね。
青羽:
しかも、シェィプ番号が1番から30番まで並んでる。
これ謎だったんですよね。この番号のダンヒル見たことがありませんよ。
柘:
我々が知っているダンヒルのシェィプ番号は、31番からだよね。
青羽:
アメリカのダンヒル研究の第一人者だったジョン・ローリングは、1907年にデューク・ストリートにダンヒルが店を作ったとき、この店においてあった他社製パイプには、1から30までのシェイプ番号が割り当てられていた、と書いていましたね。
柘:
ということは、ダンヒルは1910年からパイプを作り始めるから、その前にダンヒルの店で売っていたパイプということか。
青羽:
ここに1920年代のダンヒルのカタログがあるけど、最初のページのシェィプ番号が31番32番33番のビリヤードでしょう。
柘:
いいブライヤーだね。
青羽:
それに見たとおり、1920年代のカタログには銀巻をのせてないですよ。それに、最初のぺージは番号順にパイプが載せてあるけど、次のページはビリヤードだけど、60番とか114番とかバラバラになっていきますね。
柘:
ダンヒルのシェィプ番号はわけわかんないね。
うち(柘製作所)だとビリヤードは200番台ベントは600番台だと決まっているし、サビネリでも、そうじゃないかな。ベント系は600番台で601が基本だ。
ダンヒルは、そういうつけかたをしなかったんだね。
青羽:
おまけにシェイプコードに、数字以外にアルファベットが入ってくる。ここに「O」のパイプを持ってきましたが、ローデシアンですよね。
柘:
(見て)確かに「O」だね。ポットが「R」、パネルが「EK」、判りやすいのは「LB」のラージ・ビリヤードぐらいだ。
青羽:
最初のカタログに戻るけど、銀巻だと6シリング6ペンス、巻いてないと5シリング6ペンスと、値段が違いますね。
柘:
DUNHILL’Sの下にOWN MAKEって書いてあるね。
青羽:
BBBも昔は「OWN MAKE」ってありましたよ。
それと吸口とシャンクの結合方法はスクリュー・マウント(螺旋式)なんでしょうね、形状から見てアーミーマウントもあるかもしれないけど。
アルフレッド・ダンヒルはスクリュー・マウントを嫌っていたから、みんなプッシュイン(差し込み式)にしてますね。
柘:
スクリュー・マウントを使っていたのはケーウッディぐらいじゃないかな。1960年代70年代のカドガングループであったケーウッディはスクリュー・マウントでしたが、アメリカ市場はプッシュインでした。
青羽:
懐かしい名前ですね。そういえば、ダンヒルの下部ブランドにパーカーがありましたね。
香山:
僕が20代の頃、パイプ屋にダンヒルを買いに行って、どのパイプにするかなかなか決めきれずに迷っていたら、店主のオヤジから「ダンヒルは君にはまだ早い。パーカーで十分だ」などと余計な忠告をされたな。財布の中にお金があることを見せたら、黙って売ってくれたけどね。
柘:
昔はパイプのことで色んなことを言う人がいたよね。私が銀巻きを喫っていたら「銀巻きはパイプじゃない。パイプはブライヤーと吸口だけで、余計なものはいらない」とか。昔は東京・銀座に佐々木商店と菊水がパイプ屋として張り合っていて、パイプスモーカーも佐々木派と菊水派に分かれて、パイプを巡って独自の見解、主義主張を唱えていたものだ。
柘:
ダンヒルのパイプブランドの関連で言うと、ダンヒルが2021年に煙草事業から撤退したため、パイプ製品などはザ・ホワイトスポット(THE WHITE SPOT)という別ブランドとして展開されるようになった。

実はそのホワイトスポットのブランドは古いものだ。これが1921年のダンヒルのカタログだけど、そこに今使っているホワイトスポットのマークが掲載されている。
香山:
1921年と言えば、大正10年ですね。さすがだな。
青羽:
日本でダンヒルパイプを最初に取り扱った代理店が神戸の山中商会だけど、そこのパンフレットはこのマークを使っている。
柘:
ダンヒルという名前を使えなくなってきたので今はホワイトスポットというのが代わりのブランドになっているけど、元々由緒あるものなんだよ。
司会:
ホワイトスポットを巡って色々と話が発展しましたが、ではホワイトスポットはダンヒルパイプの真贋を鑑定する要素にはなりにくいでしょうか?
読者の皆様が一番知りたがっているところですので、宜しくお願いします。
柘:
ダンヒルは、ホワイトスポットを昔から特製の尿素樹脂を使ってきちんと作っている。何が特製なのかというダンヒルの企業秘密を私が言う訳にはいかないのは最初にまず断った通りだ。

古い吸口を修理する時、ロンドンのダンヒル本社とウチのように特製樹脂を供給してもらっている場合は別にして、象牙や適当に白色系の樹脂を詰めて見掛けだけ修理しているケースも多々あるだろうから、ホワイトスポットを肉眼で見ただけではなかなか難しいと思うね。
香山:
私はただの熱烈なダンヒルファンだったのがいつの間にか、ダンヒルパイプの真贋鑑定人に祭り上げられて、頼まれて数多くのダンヒルパイプを鑑定するようになった。鑑定人に祭り上げられた以上は、真贋鑑定の腕を磨くために勉強して様々な努力と工夫をしてきた。
司会:
偉いです。香山さんが来るらしい催しと分かれば、持っているダンヒルコレクションの無償鑑定をお願いするダンヒルパイプ愛好家の行列がどこでもできますよね。
香山:
ダンヒル好きのパイプスモーカーに対する私なりのささやかなサービス。皆さんに喜んでもらえるから嬉しい。
さて恭ちゃんの言う通り、最終的に真贋を見極めるにはシェイプ(姿と形)、エボナイト、刻印などを総合的に調べて鑑定するしかない。これはその通りだ。
そこでホワイトスポットはどうかということになるが、私なりに色々と試行錯誤した結果、良い方法を見つけた。実はホワイトスポットだけで一応の真贋鑑定する方法があるんだ。
司会:
で、その方法は?
香山:
誠に残念なことに、多くの方が読んでいるこの日本パイプクラブ連盟のウェブサイトの場でその具体的な方法を披露する訳にはいかないんだな。
なぜなら外国製の精巧な偽ダンヒルは、専門工場で職人の手で組織的に製作されているのは確実だ。私がこの場で明らかにした途端に、外国に情報が筒抜けになってしまい巧妙な対策を講じられるのは確実だからね。外国では偽物作りが堂々とビジネスになってしまっているから厳重に警戒して伏せておかなくてはならない。
読者の皆様には私なりの方法をこの場でどんどん明らかにしたい気持ちはやまやまだが、明らかにできない私の苦衷を察していただければと願うばかり。
ただ私限りの秘伝にするつもりは全くない。私とそれなりの付き合いがあるダンヒルパイプの愛煙家の方には、私の方法を軽々に公開しないと言う約束をしてくだされば、惜しみなく伝授します。
司会:
香山さんの苦しいお気持ちはよく分かります。皆様、ありがとうございました。
今回はダンヒルのシンボルともいうべきホワイトスポットについて、皆様から様々なよもやま話を頂戴しました。中には話が脱線したり、発展し過ぎたところもありましたが、読者の皆様の何かのご参考になれば幸いです。
次回からいよいよ刻印の話に入ります。数回に分けて順次掲載する予定です。 乞うご期待。