パイプの愉しみ方

パイプの愉しみ方

高雄のパイプ烟草屋さんと南台湾グルメ旅行

パイプ愛煙家 Q

 

久しぶりの台湾

 

この秋、パイプ仲間たち数人で台湾の高雄に四泊五日で遊びに行った。美味しい海鮮中華料理を味わい、のんびりと観光するのが目的の気ままなグルメ旅だ。

 皆、引退の身で時間はたっぷりあるが、フトコロ具合は有り余っているというわけでもないので、往復の航空機は必然的に成田発のLCC・ジェットスターという選択になる。シートの前後の間隔がやや狭いので、乗り心地が悪いかと懸念していたが、そうでもなかった。

早朝便とあって、未明に起きて家を出て来たから睡眠不足。搭乗後、機内でぐっすり寝入ってしまい、目が覚めたら台湾島の高い峰々が見えてきた。あっという間に高雄国際空港に着いたという感じだ。

 

私の高雄訪問は二度目。かなり前に観光で来たことがある。その時は人情、治安、食べ物、街の清潔さなど、とても良い印象を持った。しかし、その後は台湾に一向に足が向かなかった。理由は明白で、ホテルで一切喫煙できないばかりか、日米並みの嫌煙国家になってしまったからだ。

 

台湾は法律でホテルの建物内は禁煙だ。屋外でも指定場所以外は原則禁煙で、違反者を見つけたら携帯電話でその場面を撮影し、密告するよう政府が奨励している。密告者には報奨金が出るそうだ。

愛煙家は、そんな息がつまるような国に行くのは敬遠する。ましてや筋金入りのヘビースモーカーで鳴らす我々パイプ愛煙家にとっては、観光旅行先のリストから最初に除外してしまうのは当然だろう。

ところが仲間の一人がインターネット検索で面白い宿を見つけた。「室内では遠慮して欲しいがバルコニーでの喫煙はどうぞご自由に」というアパルトマンがあったのだ。しかも高雄市の中心部にあって足の便も良く、宿代は格安だ。そうなれば、行かない手はない。

 

 

高雄は亜熱帯

 

飛行機から降りて閉口したのは、その蒸し暑さだ。冬の台北は那覇より寒いことがあるが、高雄は北回帰線を越えるので、亜熱帯と熱帯の境で、サトウキビやマンゴーが豊富な地域。ベストシーズンは日本では厳寒期の12月から2月、その時期の高雄は平均気温が24、5度で快適だが、10月は日本では秋冷の気配が漂っているが、こちらはまだ真夏だ。

当然だが、地下鉄の駅を下りて宿まで数分歩いただけで、汗びっしょり。それでも延々と1カ月間も雨が続いた東京から来ると、気分は明るくなる。

夏服に着替えてさあ昼食に出陣。皆、お腹がぺこぺこだ。ガイドブックに紹介してあった近くの有名な牛肉麺屋に向かった。「美味しかった」と言いたいところだが、それほどでもなかった。まあ、高雄の名物グルメは高級海鮮中華料理だから、肉系の料理に期待してはいけない。口直しは有名デパート地下のサーティワン・アイスクリーム。これはうまかった。しかも日本の同じ系列店とは違って、店員がアイスクリームを掬う匙自体が大きくて量もたっぷりだった。

 

満腹になったところで市内散策を兼ね、猛暑の中を六合に向かった。観光名所の六合夜市探索が目的だ。ところが、Google Mapsで道順を確かめながら先導していた仲間が道を間違え、とんでもなく遠回りになってしまった。

強烈な日差しの中、2時間近くとぼとぼ歩くのは古希を過ぎた老人集団の脚にはかなり堪えたが、感心したのは治安の良さだ。西欧のパリやローマなど大都市では、頭デッカチの政治家と官僚が主導した移民政策が大失敗。繁華街はスリや搔っ払い、ひったくりどもの天下になっている。特に警戒心が乏しく大人しい日本人観光客は狙われやすい。昼間も危ないのに、のんびりと夜の街の見物を楽しむどころではない。

それらと比べたら台湾の治安は格段に良い。今の日本と同等以上と思って良い。まぁ、日本の治安が果たしてこれからどうなるかわからないが‥‥。

 

極上海鮮料理と「スモーカーズ・イン」

 

翌日は高雄初訪問で観光地巡りをしたいグループと、既に数回訪問した組の二手に分かれて行動にすることにした。私は後者の組。

今回の高雄旅行には参加しなかったパイプ仲間から「台湾のパイプ煙草屋で、台湾ならではのパイプ烟草をお土産に買ってきて欲しい」と頼まれていたから、そこに行くことにしたのだ。

やや郊外にある煙草屋の住所を書いた紙は手元にある。店名は「スモーカーズ・イン」。センスのいい響きだ。乗合バスで行けることは確かめたが、台湾語の会話は珍紛漢紛でGoogle Mapsも満足に使えないのでは乗合バスに乗る自信はない。

そこで生活力旺盛な一人が名案を思いついた。高級ホテルで昼食を摂ってから、ホテルの手配でタクシーに乗るという方法である。考えてみれば高雄到着以来、お目当ての海鮮中華にはまだありついていない。高級ホテルなら中華料理があるはず。目と鼻の先に日本航空系の5つ星ホテルの建物がデンと構えているではないか!

ホテル日航高雄の中華海鮮料理は素晴らしかった。昼食のコース料理は敢えて頼まず、料理長自慢の豪華一品料理を注文した。これが大正解だった。味は名人級で量も多い。日本の高級中華料理店でもこのレベルの海鮮料理はまずお目にかからない。

値段がやや張るのは当然として、この料理を食べるだけでも、高雄を再訪する価値があると思った。昼から酒を飲み、たらふく美味を堪能して満腹、上機嫌になった。今回のグルメ旅行の目的は半ば達した。

 

ホテルの総合案内係にパイプ烟草店にタクシーで送るよう手配を依頼した。高級車に乗って10分余りでピタリと到着した。目立つ看板もないから、バスで行って探していたら難儀していたと思う。

 

 

店に入って店番の品の良いご婦人に来意を伝えた。あいにく女主人の蕭因琳さんは外出中で、戻るまで20分ほど奥の椅子で待っていて欲しいとの由。店内を見渡すと様々な高級パイプとパイプ烟草がずらりと並んでいる。オーナーの趣味の良さが一目で判る高級店だ。日本と比べるとパイプの価格は割安感があるが、パイプ烟草はかなり高い。台湾政府が嫌煙政策で高い税率を課していることが見て取れる。

 

二畳ほどの広さのヒュミドール室の奥は、喫茶室を兼ねて洋酒が並ぶバーになっている。階段を上がった二階も広いバーで数十人は入れそうだ。学生か研究者風の男性の客が入店してきてコーヒーを頼み、パイプに着火、テーブル席に座って煙を漂わせながら黙々と読書を始めた。スマホをいじくり回さない落ち着いた所作に、本物の知性と教養が滲み出ている。続いて中年の上品な紳士が来店。親しげに店番婦人と会話を交わす。とても雰囲気が良い。

 

 

そうこうしている内に蕭因琳さんが帰ってきた。五十絡みの裕福な上流貴婦人という印象である。「日本のパイプ仲間から頼まれた、この店特製のラタキア葉入りのパイプ烟草を」と仲間が所望したが、如何せん会話が通じぬので意思疎通が厳しい。見兼ねた紳士が英語による通訳を買って出てくれた。誠にありがたいが、こういう時は言葉より写真の方が早い。蕭因琳さんに日本のパイプ仲間が写っている写真を見せたら、破顔一笑で全て諒解してくれた。

 

 

かれこれ十数年前になろうか、日本のパイプ仲間が現役時代、仕事を兼ねて年に1、2回、高雄を訪れていた際、彼はこの店の常連客で頻繁に出入りしていたのだ。

日本人のパイプスモーカーは珍しいから自然と懇意になる。彼はこの店ならではの風味のあるラタキア葉ブレンドがすっかり気に入り、引退後も折に触れて味わいたくなった訳だ。

 

蕭因琳さんによると、台湾第二の都市、高雄の人口は270万人。高雄市内のパイプ喫煙愛好家は全部で1200人ほど。台湾政府の喫煙弾圧政策にも屈せず、同好の士は結束して高尚なるパイプ喫煙を続けているそうだ。

市内にあるパイプ烟草店は5軒ほどだが、彼女の店がいつの間にかパイプ愛煙家が集う溜まり場になっているという。まさにスモーカーズ・インだ。こんな気が利いた店が東京にもあったら、と羨ましくなった。

 

通訳を買って出てくれた紳士からは日本のパイプ事情も尋ねられた。「台湾と似た事情だ」を話すと、「日本のパイプ愛煙家も絶滅危惧種ですね」と冷やかされながらも「パイプ喫煙の普及を目指している」と日本パイプクラブ連盟のウェブサイトを紹介した。紳士は早速、日本語を台湾語に翻訳したウェブサイトを読み始め、しきりに感心していた。

帰国したら、ウェブサイトでこのパイプ烟草店を紹介したい旨を伝えたら、蕭因琳さんは大喜び。紳士も「私はこの店の顧客の愛煙家に過ぎないがとても嬉しい」と喜んで下さった。

この店は蕭因琳さんのお兄さんが始めたのだが、コロナ禍で亡くなり、故人の遺志を継ぎ、市内の愛煙家のためにも兄弟で営業を続けているそうだ。日本のパイプ仲間のために、ここを見つけてくれた高雄の友人も昨年闘病の末、他界したそうで寂しい限りだが、縁はこうして繋がっている。

 帰りはバスで宿に帰ろうかと一瞬考えたが、乗り場も行く先もわからない。そこで蕭さんに不躾ながらタクシーを呼んで欲しいと依頼したら、件の紳士がさっと自分の携帯電話でウーバータクシーを呼んでくれた。しかも驚いたことにタクシー代は紳士が前払いして下さったという。見ず知らずで、偶然会ったばかりの我々に対するご厚意、おもてなしに恐縮するばかりだった。やはりパイプ仲間は素晴らしい。

短い旅行だったが、台湾人の日本人への親切さが折々に身に沁みた。一衣帯水の日本と台湾。今後もパイプ愛煙家同士の友誼を深めたい。

 

<店舗情報>
Smoker's Inn(スモーカーズ イン)
住所: 高雄市苓雅區四維二路219號
営業時間:
火曜~金曜: 12:00 - 19:00
土曜・日曜: 13:30 - 19:30
月曜日: 定休日
支払方法: 現金のみ(Cash-only)