パイプの愉しみ方

パイプの愉しみ方

『50にして煙を知る』
第17回 懐深き 杜の都・仙台「東北パイプスモーキング大会」遠征記

「仙台に行ってくれんかね」

日本パイプクラブ連盟の重鎮・梶浦恭生さんからわれわれに声が掛かったのは、大会本番ほんの1週間前のことだ。

おそらく「君らなら腰が軽く、物好きだし」といった理由からだろうが、私をはじめ何人かのJPSCの仲間がそれぞれ日程をやりくりし、6月28日、仙台で行われた「第28回東北パイプスモーキング大会」に華を添えるため、急きょ参加した。

鈴木達也・前日本パイプクラブ連盟会長も加わっての遠征だから、なかなかにぎやかになった。

東北ナンバーワン都市・仙台は札幌に似て、清潔でしゃれた街だ。東北大学という貫録のある旧帝大がどっしり据わっているから、なんともいえない落ち着きもある。

近年はプロ野球「楽天イーグルス」も人気球団に成長したことで、街にさらに活気が加わったと聞く。

というわけで一同、すっかり仙台ファンになりつつも、心中を推し量れば「せっかく遠路はるばる来たんだ。参加人数36人か、全国大会に比べれば楽なものだ。うまくいけば上位入賞、いやいや優勝も夢じゃないな」と皆、密かな野望を抱きつつ、会場となるホテルに正午前に到着し、ゴングを待つ。

200人以上参加する全国大会も豪勢だが、「40人ほどでいくつかの丸テーブルを囲んで催す規模の大会も、アットホームでほのぼのとしている」―。

大会来賓・渡辺和廣氏のあいさつのとおり、和気あいあいとした中、大会使用たばこ「シルクロード」の葉をほぐしてパイプに詰め、いよいよコンテスト開始。

「80分超えれば、多分優勝」との仲間の言葉におおいに奮い立ち、「そうか、では、まず60分を超えれば上位入賞もいけるな」と不肖・私も身の程知らずの皮算用を胸に、マッチで火を灯した。まずまずの滑り出しだ。

コンテストは静かだ。青森、盛岡、山形、仙台から参加している東北の人はみんなおとなしい。

ひとり鈴木前会長の、ささやきともジョークともつかない言葉だけが、会場に響きわたる。

「なんだい、まだ火がついているのかい」

「おや、ずいぶんまじめに吸っているじゃないか」

これをやられたご当人たちは、どこかでペースを崩されるから、不思議だ。

「あっ」―私のパイプから、突然火が消えたのは50分をちょっと過ぎたあたり。18位、ちょうど真ん中の順位であえなく沈没。

鈴木前会長が10位、来賓の渡辺さんは8位と、ご両人共60分を超え、ベスト10入りしたのはさすが。

予想どおり、優勝タイムは76分20秒。もっとも主催者側はもう少し長いタイムを期待していたらしい。

取材に駆けつけた地元紙・河北新報の記者が到着したとき、すでにコンテストは終了しており、あわて気味だったが、優勝者の金沢パイプクラブ・山田  燦(つばら)さんを捕まえインタビューをし、表彰・懇親会も無事取材でき、翌日の紙面に写真付きでしっかり掲載されていた。

帰りの新幹線まで時間があったので、大会会場のホテルのロビーで約2時間、皆でプカプカ、ウイスキーもちびちびやっていたが、ホテル側はいやな顔ひとつしない。

「さすが仙台は懐が深い。来てよかったなあ」と、遠征組も納得の1日が終わろうとしていた。

帰途につくが、ご存知のとおりJR東日本は全車禁煙だ。

「はやて」の出発13分前、いっしょに乗る渡辺さんが突如、「東京までは禁煙か。ちょっと一服吸いたいね」とプラットホームの喫煙ルームに直行する。

律儀な渡辺さんはネクタイもはずさず、出発前に食べたラーメンで流れる汗を拭くでもなく、ボウルに詰めた「飛鳥」を吸い、「うーん、飛鳥はやはりうまいですなあ」と、5分間スモークでも充分満足な表情。

本当にパイプが好きな人って、やっぱりすごいなあ。生活感まったくないもん。

千葉科学大薬学部教授 小枝義人